吉田レポート
「真夏の金融混乱」次のシナリオは?
2008年7月22日
photo 吉田 恒
1962年、青森県生まれ。
1985年、立教大学文学部卒業後、(株)自由経済社(現・(株)T&Cフィナンシャルリサーチ)に入社、2004年1月より同社の代表取締役社長就任。 また、投資情報コングロマリット、T&Cグループの持ち株会社であるT&Cホールディングス取締役にも2004年2月より就任。
財務省、日銀のほかワシントン、ニューヨークなど内外にわたり幅広く取材活動を展開。 為替ディーラーなど金融市場のプロ向け会員情報「Predictor」の編集責任者。 また一般投資家向け為替リアルタイム市況「fx wave」の運営責任者、さらに一般投資家向けの為替および株式講演会を精力的に全国展開している。
2000年からの米株バブル崩壊暴落、2002年の円急落など大相場予測をことごとく的中させ話題に。

  ファニーメイ、フレディマックといったGSE(米政府支援機関)危機が急浮上し、金融市場は2年連続「真夏の大混乱」が懸念されてきた。 この最悪シナリオはドル・株・債券「米国トリプル暴落」。 ただその兆しが出てくれば、それをテコに米政府が早期公的資金注入に急転換するといった「大逆転シナリオ」も、一部で密かに注目されている。

ワーストシナリオとベストシナリオは各5%

  市場や当局関係者とのプライベートな会話からすると、GSE問題は、公的資金注入以外は破綻が不可避との見方になる。 ところが、先週末のポールソン財務長官の記者会見では、当分の間の資金注入を否定した。

  ワシントンには、モラルハザードへの抵抗感があり、 「それに説得的な状況がまだないということか。大統領選挙を控える中で、政治的な駆け引き、いわゆる「ポリティカル・ダンス」を踊っているということはないと思うが」(金融当局筋)。

  ただし、資金注入も諸刃の剣であり、手際よく進めないと、逆に米政府自身がクレジットリスクを背負ってしまいかねない。 GSEの債務は5兆ドルとされる。 なお大規模な米財政赤字に、この新たな巨額債務を米政府が抱え込むとなると、一気に金融市場は全面的な「米国売り」でドル、債券、株の「トリプル暴落」に向かいかねない。

  これが今回の金融不安問題における「ワーストシナリオ」だろう。 一方の「ベストシナリオ」とは、市場の機先を制するべく、速やかに公的資金注入をおこなうというもの。

  少なくとも金融市場の期待値は、公的資金注入は不可避というものだろうから、それを催促する形で今週末にかけて米債売り、金利急騰リスクが再燃しかねない。 そんな具合に、マーケットが黄信号を点滅させたら、一転して米政府は公的資金注入に方針を、早期に大転換するといった「大逆転シナリオもありえなくない」(金融当局筋)といったことが、なお密かに注目されている。

  ただし、その場合は、モラルハザードへの説明の観点から、最低でも救済する対象をGSEに限るといった具合の線引きを明確にする必要がある。 その中で現在の混乱が小康となった来年以降の「GSE解体案」も検討されるとの見方が有力だ。

  このような大方針転換が成功裏に終わるというのが、ベストシナリオで、その場合は株価が底打ち、反転し、株式市場等へ資金が逆流する結果、原油価格が暴落する可能性があるだろう。

  ただし、このような「ワーストシナリオ」、「ベストシナリオ」の確率はそれぞれ5%程度で、残りの90%は中間的なシナリオになるだろう。 つまり、米国のトリプル暴落も、逆に原油価格の暴落も回避されながらも、不安定な動きは続くといった可能性だ。

「第2のベア」思惑の裏側

  いずれにしても、このように比較的早い段階でGSEの問題は他の金融機関の問題から区別される可能性が考えられる。 その中で、3月に金融危機に追い込まれたベアスターンズに続く、いわゆる「第2のベア」登場となってしまうのか。

  民間金融機関の危機の根本には、住宅市況の悪化がある。 この下げに歯止めがかかるのは当分はまず無理であり、その間「第2のベア」懸念がくすぶり続けることはやむをえないだろう。

  ベアスターンズは、危機が表面化してからほんの2−3日で破綻寸前まで追い込まれるといった具合に、かなり目まぐるしい展開となったのが一つの特徴だった。 これはプライマリーディーラー特有の影響も大きく、そういったリスクは今回緊張が高まっているリーマンについても該当するものだけに予断は許せない。

  3月ベアスターンズについては、急な危機の深刻化に対して、JPモルガン証券の救済合併といった形で一段落した。 今回の場合、金融市場関係者の常識からすると、救済合併が可能な先は、世界的に見渡してもHSBCぐらいしかない。 ここ数日浮上した、HSBCによる救済合併の思惑は、マーケットの常識としてそれが現実的選択肢の一つといった見方が基本になっているだろう。 (Y)


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