吉田レポート
シミュラフィクション「米銀クライシス」その1
2008年8月25日
photo 吉田 恒
1962年、青森県生まれ。
1985年、立教大学文学部卒業後、(株)自由経済社(現・(株)T&Cフィナンシャルリサーチ)に入社、2004年1月より同社の代表取締役社長就任。 また、投資情報コングロマリット、T&Cグループの持ち株会社であるT&Cホールディングス取締役にも2004年2月より就任。
財務省、日銀のほかワシントン、ニューヨークなど内外にわたり幅広く取材活動を展開。 為替ディーラーなど金融市場のプロ向け会員情報「Predictor」の編集責任者。 また一般投資家向け為替リアルタイム市況「fx wave」の運営責任者、さらに一般投資家向けの為替および株式講演会を精力的に全国展開している。
2000年からの米株バブル崩壊暴落、2002年の円急落など大相場予測をことごとく的中させ話題に。

  これはフィクションだ。 ただ懸念がくすぶり続けている米金融機関クライシスの「最悪シナリオ」として、一部識者の間で語られているものでもあり、実際にフィクションのままで終わる保障もない。 米政権移行期といった「政治空白」のタイミングで、大手投資銀行の破綻懸念までもが現実化し、金融市場が大混乱に陥る中で、新政権はかつての邦銀のような「米国版・金融再生プラン」策定に迫られる――。 それをシミュレーション・フィクション、「近未来小説」風にまとめてみた。

< 第1幕;10月×日 >

  サブプライム問題が深刻化する中で、米金融機関の四半期決算発表は、つねに金融市場の大きな注目材料となってきた。 しかし現実には、「バイ・ザ・ルーマー、セル・ザ・ファクト(噂で買い、事実を確認して売る)」の世界である。 基本的には、正式発表前に金融市場での「審判」は下っていることが多かった。

  10月18日、ある大手米金融機関の四半期決算が発表された時も、まさにそうだった。 この数ヶ月囁かれ続けた「第2のベアスターンズ」の噂は大手証券のほか、投資銀行にも広がっていたが、正式な決算発表の段階ではすでに決着がついていた。 というより、早々とまだ始まったばかりの10−12月決算を乗り切れるかに焦点は移っていた。

  一難去ってもまた一難といった具合に「終わらない不安」の様相が続いた最大の理由は住宅市況の底割れが止まらないことにあった。 夏に一時、住宅公社、GSE(米政府支援機関)の経営不安が浮上、金融市場に精通したポールソン財務長官による電光石火の支援策とりまとめは評価された。 しかしそんな評価もすぐにフェードアウトしていった。

「住宅市場や経済にとって重要なのは、GSE支援のあるなし、国有化かするかどうかよりも、その後のGSEがどうなるか。つまり、GSEが住宅金融を積極化すれば住宅市場底打ちに貢献するかもしれないが、一方でバランスシートに一層大きな潜在リスクを抱える。換言すれば、財政負担が一段と大きくなる可能性がある」(金融市場筋)。
「逆に、支援を受けても公的負担を最小限にすべくシュリンクするならば、住宅金融の担い手がさらに減るわけで、支援を受けない場合と本質的には変わらないのではないか」(同筋)。

  問題の本質は、住宅市況の底割れに歯止めがかからないこと。 それが続く限り、金融機関の経営悪化も終わらず、金融再編と背中合わせの破綻リスクはなくならない。 問題の核心、いわゆる「本能寺」がどこなのかは、誰もが理解しはじめていた。

  ただし、その中で誰もが密かに祈っていたのは、その表面化が最悪のタイミングに重ならないことだった。 11月大統領選挙をはさんだ政権移行期は、政府は機能しているものの、立法府は休止状態といった政治空白期。 そんな最悪のタイミングに「Xデー」が重ならないかが、口に出すことがはばかれるくらいの「恐怖シナリオ」だった。

  しかし、金融市場には「弱いところを狙う」ような習性がある。 換言すれば、誰もがそうなってほしくないと思っている方向にむしろ動くことが多い。

  為替市場のドルは、夏に110円を回復したのが幻だったように弱含みはじめていた。 そもそも、米大統領選挙年の為替は、夏までは息を殺したような静かな動きを続けるものの、選挙前後はとたんに活発な動きになるのがいつものパターンだったが、今回の場合も例外ではなかったようだ。 不気味なドル安が広がり始めていたのである。 (続く)


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