吉田レポート
シミュラフィクション「米銀クライシス」その2
2008年8月28日
photo 吉田 恒
1962年、青森県生まれ。
1985年、立教大学文学部卒業後、(株)自由経済社(現・(株)T&Cフィナンシャルリサーチ)に入社、2004年1月より同社の代表取締役社長就任。 また、投資情報コングロマリット、T&Cグループの持ち株会社であるT&Cホールディングス取締役にも2004年2月より就任。
財務省、日銀のほかワシントン、ニューヨークなど内外にわたり幅広く取材活動を展開。 為替ディーラーなど金融市場のプロ向け会員情報「Predictor」の編集責任者。 また一般投資家向け為替リアルタイム市況「fx wave」の運営責任者、さらに一般投資家向けの為替および株式講演会を精力的に全国展開している。
2000年からの米株バブル崩壊暴落、2002年の円急落など大相場予測をことごとく的中させ話題に。

  前回に続き、米金融危機の「最悪シナリオ」を、シミュレーション・フィクション、近未来小説風にまとめた内容の「第2回目」。

< 第2幕;11月×日 >

  民主党の大統領候補、バラク・フセイン・オバマは、大接戦が続き、いつ決着がつくのか見えない戦況に、半ば呆れ顔になっていた。 「まったく8年前と同じではないか」。

  8年前とは、共和党ブッシュと民主党ゴアによる2000年11月の大統領選挙を指していたのはいうまでもない。 2期8年というクリントン政権の任期満了を受けた大統領選挙は前代未聞の大接戦となった。

「2期8年の政権終了後の大統領選挙は大接戦が珍しくない。1960年も、1988年もそうだった」。

  オバマが悩みに悩みぬいて、いくつかの心変わりを経て、ようやく8月末の民主党大会直前のタイミングで決めた副大統領候補が、そんな知識を披露した。 歴史的評価がきわめて難しいブッシュ政権2期8年の後を受けた今回の大統領選挙は、その意味では当初から簡単に決着するものではない宿命だったのかもしれない。

  ところで、オバマが自らの政権のパートナーとなる副大統領候補の選定について悩みに悩んだ原因の一端もブッシュが担っていたのかもしれない。 じつはオバマは、8月早々に副大統領候補をある人物にすることで決めつつあった。 ところがそういった中でロシア・グルジア問題が発生した。 米国内の世論はきわめて厳しく、「冷戦復活か」といった声さえ上がった。

  ブッシュ時代が終わり、ブッシュ政権で続いてきた枠組みが変わりはじめていた。 国際情勢が大きく動きはじめている中で、「素人」のオバマに、安全保障や外交の専門家も入らないコンビで大丈夫か――。 そんな不安が広がりかねないとして、オバマはパートナー選びをひっそりと白紙に戻したのである。

  ことほどさように、「強いアメリカ」にこだわったブッシュの退場はいろんな変化を表面化しはじめていた。 それを織り込むようにドルも下落の勢いを強めていた。 「弱いアメリカ」への転換ということなのか。

「せっかくの選挙戦を勝利してオバマ新大統領誕生となっても、12年前のように金融市場に主役を奪われてしまいかねない」。 経済ブレーンとして支えてきた財務長官経験者であり、そして大手投資銀行の経営にも関係してきたロバート・ルービンが、いつものように神妙な顔つきで、そんなふうに言うと一同に緊張が走った。

  1996年11月の大統領選挙は、クリントン大統領が再選する結果となった。 しかしその日、為替相場ではドルが急落した。 当時「ミスター円」と呼ばれ、金融市場に絶対的な影響力を示していた大蔵官僚、榊原英資の一言がきっかけだった。

  それについて、金融市場のプロフェショナルたちの情報誌とされる「バロンズ」は次のように活写した。 「この日主役となるのは再選を果たしたクリントンのはずだった。しかしそんなクリントンから主役を奪った人物がいた。ミスター円である」。

  そんな具合に、時として金融市場は政治から主役を奪うことも珍しくない。 問題はそれがまさに今なのかということ。 一年前と異なり、平静に過ぎた夏が幻のごとく思えるほど、ドルと株が下がりはじめ、「嵐の秋」の兆しが広がりはじめていた。

  そもそも大統領選挙年の為替は、「嵐の秋」がつねであり、一気にその年のドル高値、ないし安値をつけるといったジンクスがあった。 為替市場では、あの3月に記録した95円という価格が「フライング」ではなかった、そんなセンチメントが広がっていたのである。 (続く)


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