吉田レポート
シミュラフィクション「米銀クライシス」その3
2008年9月1日
photo 吉田 恒
1962年、青森県生まれ。
1985年、立教大学文学部卒業後、(株)自由経済社(現・(株)T&Cフィナンシャルリサーチ)に入社、2004年1月より同社の代表取締役社長就任。 また、投資情報コングロマリット、T&Cグループの持ち株会社であるT&Cホールディングス取締役にも2004年2月より就任。
財務省、日銀のほかワシントン、ニューヨークなど内外にわたり幅広く取材活動を展開。 為替ディーラーなど金融市場のプロ向け会員情報「Predictor」の編集責任者。 また一般投資家向け為替リアルタイム市況「fx wave」の運営責任者、さらに一般投資家向けの為替および株式講演会を精力的に全国展開している。
2000年からの米株バブル崩壊暴落、2002年の円急落など大相場予測をことごとく的中させ話題に。

  米金融危機の「最悪シナリオ」を、シミュレーション・フィクション、近未来小説風にまとめた内容の「第3回目」。

< エピローグ;12月×日 >

  あの8年前にもおとらないほどの大接戦を制したのはバラク・オバマ、史上初めての黒人大統領の誕生となった。 熾烈な選挙戦を戦い続け、精神的にも肉体的にも疲労のピークに達していたオバマではあったが、歴史的勝利の美酒はそれを吹き飛ばすほどの味わいだった。

  選挙戦を通じて「スピーチの天才」が知れ渡ったオバマは、早くも年明け1月20日の就任演説で大喝采を浴びる自らの姿を夢想した。 そんなオバマ新大統領を米国民は大歓迎し、支持率は80%を上回る空前の水準で政権はスタートを切るだろう。

  しかしそんな次期大統領内定者のもとに、一枚のメモが渡された。 金融市場の混乱を伝える内容だった。 「××銀行が破綻した――」。

  大統領選挙といった政治の季節が推移したこの数ヶ月の間も、他方で金融・経済のドラマが目まぐるしく展開した。 米大手証券に対して、外資系金融機関による救済合併、SWF(国富ファンド)による増資。 そのたびに、株もドルも大きく反発したが、またすぐに新たな懸念材料の出現により下がるといったことを繰り返してきた。

  終わらないドラマの元凶は、住宅市場だった。 住宅市況の底割れに歯止めがかからず、市況のテコ入れを狙い米政府は住宅公社の優先株を購入、実質「国有化」の検討を急いでいた。 しかしそれは財政負担増にほかならない。 財政赤字拡大で民主党の伝統的な「大きな政府」回帰といったシナリオを試すように、ドル、債券、株「トリプル暴落」の気配が漂いはじめていた。

  「大きな政府」と批判されようとも、住宅市況の底割れに歯止めをかけるために、財政負担の増加は、今の場合「必要悪」なのではないか。 次期大統領内定者の苦悩を見透かしたように、金融市場の暴走は拡大していった。

  とくにドル安は勢いづいた。 夏に一時原油価格が急落したことでユーロ安・ドル高へ反転していた動きも、ふたたびドル安・ユーロ高に転じていた。 止まらないドル安、それは2期8年、為替不介入を貫きつつあるブッシュ政権も、そして次期政権も、本当に為替介入ができるかを試すような、金融市場による不敵な挑戦のようでもあった。

  やはり、8年前、2000年11月大統領選挙の時も、似たような光景が展開した。 当時の標的はユーロ。 大統領選挙の最中での協調介入が試されたわけだが、結果的にはサプライズな協調ユーロ買い介入が実現、それがきっかけとなってユーロは大底入れとなったのである。

  当時の協調介入を指揮したのは、クリントン政権最後の財務長官、ローレンス・サマーズだった。 ブッシュ政権最後の財務長官となるポールソンは、そんなサマーズに自らの置かれた状況を重ねた。 すでに不介入政策転換の用意は進めてきた。 協調介入をやることにも躊躇はないはずだった。

  しかし事態は為替市場にとどまらない。 大手米銀破綻の噂が飛び交う中で、株安も止まらず、そんな株安がさらに銀行破たんに現実味を持たせるといった悪循環が広がっていた。 事態はもはや銀行への公的資金注入の必要性まで問うような動きになっていた。

  1990年代後半から広がった邦銀危機。 その中で、日本政府は決断の鈍さを批判されながらも、追い込まれるように金融再生プランにたどり着いた。 似たような暗雲が、米銀にも忍び寄っていた。 史上初の黒人大統領は、「米国版・金融再生プラン」の検討を決意していた。 しかしその傍らで、止まらない株安と、そしてドル安が続いていた――。 (Y)


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