―キャッシュフローファイナンスの活用―「純粋な不動産価値評価によるノンリコースファイナンスに感銘を受けました」

KICアセット・マネジメント株式会社 代表取締役会長兼社長 峯田 勝之

株式会社新生銀行 不動産ファイナンス部長 山田 茂

株式会社新生銀行 不動産ファイナンス部 統轄次長 村田 将史

Question 1

御社の社名の一部にもなっておりますが、アセットマネジメント業務とはどのようなものでしょうか。不動産業界に従事されていない方々向けにご説明をお願いします。

峯田社長:弊社は不動産の投資顧問業務やアセットマネジメント業務を中心に取り組んでいる会社です。アセットマネジメントという言葉には馴染みのない方もいらっしゃるかと思いますので、少しご説明します。

日本国内では、不良債権処理の加速化が必要とされる中、1998年9月にSPC法(特定目的会社による特定資産の流動化に関する法律)が施行され、不動産の所有と経営の分離が可能となりました。その後、2001年4月の改正法施行により対象となる資産の範囲も拡大され、法律名も「資産の流動化に関する法律」と改められました。この一連の法整備や投資信託法改正などをスタートとして、不動産流動化マーケットが成長してきたと考えられています。

なお、不動産ファイナンスとしては米国が我々の手本とするマーケットです。私個人としても、生命保険会社在籍時の1980年代に米国へ赴任し、不動産投資を中心とした資産運用業務を経験しました。その経験により、日本でSPC法が施行される際には、「アセットマネジメントとは何か?」といった記事の執筆にも携わりました。

主題に戻りますが、アセットマネジメントとは、不動産の管理を実際の所有者や投資家(複数の場合もあります)から代行することをいいます。例えば、会社のバランスシートに計上されている既存アセットをオフバランスする際に、SPCが別事業として経営していく際のお手伝いをするというイメージです。ここでは弁護士、会計士、不動産鑑定士など各専門家、あるいは投資家及び金融機関といった多くの関係者が存在します。それらの関係者を束ねていくことがアセットマネージャーの大きな役割のひとつです。バランスシートの資産サイドには不動産、負債・資本サイドではファイナンスやリーガル等がそれぞれ集約されています。

最後にもうひとつ大切なことは、我々はどちらかというとバランスシートの右側、負債・資本サイドに重心を置いて考えていますが、投資家やレンダーの方々に対して誠実で正直であるという行動原則が重要であると考えています。マーケットには浮き沈みがありますから、各関係者の間で利益相反が生じることもありますが、この行動原則を堅持していくことによって、業界内での信頼を得ながら、着実に成長できると考えています。逆にそこを踏み外しますと、マーケットが悪化したタイミングなどで、経営が間違った方向に進んでしまうと思います。

Question 2

御社の設立経緯と沿革をお聞かせください。

峯田社長:個人的な経験を踏まえて申し上げますと、大きな組織のなかにいると必ずしもお客さま本位の資産運用や利益最大化を追求することは難しく、一方で会社の利益も考えていかなければなりません。もっと自分の思い通りにできれば、資産運用益を最大化できるはずだと感じたことが、「外でやってみよう」と思うきっかけでした。その後、外資系企業での経験を挟み、最終的には「自分の会社でやってみよう」という考えに至ったわけです。KICアセット・マネジメントは2010年7月の設立です。そもそもは生命保険会社時代の先輩が設立した会社ですが、2012年より私が経営を引き継ぐことになりました。当時はリーマンショックや東日本大震災などの外部要因もあり、非常に厳しいビジネス環境でしたが、個人的に物流不動産に関するネットワークがあり、それを切り口として企業を成長させていこうと決意しました。とはいえ、2012年12月に第二次安倍内閣が成立するまでは消費税増税などから景気も低迷したままであり、独立系のアセットマネジメント会社がほとんどいなくなってしまったような状況でした。海外からの投資活動もリーマンショック以前とは大きく変容し、マーケットが冷え切った状況に陥りました。ただ経営を引き受けた以上はなんとかうまくやっていかなくてはいけない、その一心で様々なアセットタイプに全力で取り組んできました。物流不動産、ヘルスケア、セルフストレージなどが対象であり、その結果、何とか今日に至っている次第です。おかげさまで、この約2年で中型の物流倉庫案件を引き受けられるようになりました。とりあえず第一ステージから第二ステージに移る段階まできましたが、振り返るとよくここまで来たなという感想です。

Question 3

峯田社長が物流施設に注目された理由は何でしょうか。

峯田社長:私はAMBプロパティジャパン(現プロロジス)という会社で2005年から2007年まで日本代表を務めておりました。当時は日本国内では物流不動産のプレーヤーも少ない状態で、他にはないノウハウを持っていました。大手が得意とするオフィスビル等のアセットには新規参入余地は見出せませんでしたが、物流不動産であれば、会社として成長していく余地があるだろうと判断しました。事業開始時には、日本の財閥系大手や外資系の大手プレーヤーが10社程度存在していましたが、まだまだ当社が入っていく余地、特にマルチの大型物件に余地があると考えていました。しかしその後、大手不動産デベロッパーが参入してきたことで当社が活躍できるフィールドが限られてしまいました。そこで規模的には大型でも専用センターのような、1物件に1テナントの案件、加えて、食品取扱のため少し臭いが発生するなど、固有のニーズを持っている案件の取り込みに着目しました。また、物流倉庫は立地としても少し特殊性があるものですから、土地選定での目利き力やリーシング面でのお手伝いなどによって競合他社との差異化を図ってまいりました。3PL(サード・パーティー・ロジスティクス)※を活用するお客さまも多く存在するため、物流会社さんとの資本提携などにより情報やノウハウの取り込みを図っています。また、首都圏、なかでも1都3県のパートナー企業の集積地に絞って物件選定を行なっています。さらに、事業展開に際しては、今まで案件を通じて培った人的ネットワークが礎となっており、信頼関係によって裏付けされた人と人との情報ネットワークができあがっております。そのあたりが物流不動産で当社が活動できる生命線になっていると思います。

※3LP(サード・パーティー・ロジスティクス)とは、荷主の物流業務を荷主や運輸会社以外の第三者が包括的に受託するサービス。

Question 4

新規事業であるファンド事業の内容についてお聞かせください。

峯田社長:2017年10月に1号ファンドを組成することができました。武蔵村山市にある中型の物流倉庫を特定目的会社に組み入れ、御行にファイナンスしていただいた案件です。本倉庫は、国内の東証一部上場の梱包・物流会社さんが電機系設備の搬出入に利用されており、長期的に物流倉庫を賃借いただくことになっていることから、安定的なキャッシュフローを見込むことができる点が特徴です。手堅いスキームではありますが、当社の事業規模は大手と較べるとまだ小さく、かつ御行との初のお取引であるという点をクリアするため、大手J-REITさんに優先購入権を取得していただくという設計を加えました。その結果、その他の投資家さんにも安心して出資をご検討いただき、安定感のある出資構成に繋げることができました。プライシングに関しても、まずは当社収益というよりは1号ファンドの組成自体を最優先に考え、また案件に参加いただくステークホルダーの利益も重視したものとさせていただきました。
皆さまのご協力のもと、昨年10月に無事案件を着地させることができました。

Question 5

弊行とのお取引のきっかけをお聞かせください。

峯田社長:1号ファンドに関しては、取引実績も乏しい中で、どの金融機関から調達が可能なのかという不安からのスタートでした。その中で、御行の場合は、不動産評価や契約関係の精査をきっちり行なっていただいた上で、対象資産のみを担保としたノンリコースファイナンスのご検討が可能とお伺いしたため、ぜひご相談させていただきたいと打診したのがきっかけです。当社としても信頼関係のある方と案件を進めさせていただくことが非常に重要と認識していましたが、お互い初めての仕事になるわけですから、色々な課題や乗り越えなくてはならない壁が出てきました。そういったなかでクロージングまで誠実なご対応をいただいたと感じております。また当社の従業員数、資本力、財務基盤としては競合大手には見劣りするかもしれませんが、アセット内容や社員の能力を評価していただいたと感じており、非常に良い機会に恵まれてよかったなという気持ちでいっぱいです。

山田:初期段階から案件に携わらせていただいたのですが、スキームの手堅さなど、まさに社長が仰るとおり弊行側も誠実な対応をいただいたと感じております。精一杯対応させていただきましたが、無事クロージングとなり、私個人としても達成感のある案件で感謝しております。

村田:1号ファンドを組成するうえで、峯田社長がしっかりとしたポリシーを持ち、当行の目線にあうスキームを構築いただいたこと、あわせて誠実に問題点を共有しながら案件をお取り進めていただいたことが大きかったと思います。課題に対してもしっかりと対応していただき、「共に乗り越えていきましょう」という意思を強く感じました。それを受けて我々としても全力で案件に取り組ませていただいた次第です。誠実で正直な姿勢もお互いの信頼感につながったと感じております。今回の信頼関係を次回の案件にもつなげていくことができれば、と感じています。

Question 6

新生銀行の強みや他行との違いとして感じられたところはありましたか?

峯田社長:ノンリコースファイナンスですが、リーマンショック以降、単純な資産評価だけではなくスポンサー力も問われることが多くなりました。ノンリコースというよりは、リコースに近い融資判断をするのが最近の特にメガバンクさんの傾向かと思います。御行には、不動産の収益力や土地のポテンシャル、立地、テナントとの契約内容、テナントが契約を履行する確度、ストラクチャーリスクなどといった観点から審査をすすめていただきました。日本の銀行で純粋なノンリコースローンとしての融資判断をしていただけるのは御行以外にはあまり無いのではないかと思います。御行は不動産の評価をしっかりとされたうえで、リスク分析をすすめられました。本来のファイナンスをしっかりと目利きできるというのが、他行との大きな違いではないかと思います。当社のような会社にとってはかけがえのない銀行であると認識しております。

Question 7

今後の中長期的な展望をお聞かせください。

峯田社長:中期計画としまして、運用残高を300億円から500億円くらいまでもっていくという目標を掲げております。基本的には物流不動産が対象となりますが、土地を更地で購入するところから始まる開発にもチャレンジしていこうと考えています。今後、マーケットも一本調子で上がっていくわけではないと思いますので、状況に応じて既存物件の入替えも考えながら中期的に300億円から500億円、この2、3年ですと300億円をターゲットとしています。

さらに当社はライセンス上では宅建業、不動産投資顧問業、金商法二種、投資助言・代理業というライセンスを有していますが、今後、総合不動産投資顧問業と投資運用業の申請も予定しています。我々は独立系の不動産投資顧問会社というこだわりを持っていますが、各人の経験を活かし、ローカルなマーケットをグローバルな視点で捉えることができる点が強みです。毎日ニューヨークの株価動向や金融動向をチェックし、経済統計などにも目を通しながら、ちょっとした変化にも目を配っています。ライセンス取得により、これらの強みを十二分に生かした事業展開が可能になると考えています。

また、事業展開は1都3県が基本ですが、キーワードの物流不動産はハードアセットに拘らず、証券化商品への投資も行います。

消費者を取り巻く環境変化を前向きにとらえる見方も重要です。
インターネットでの購入者が増加していくような消費者行動の変化を積極的に捉えるようにしています。それに伴う不動産のトレンドもどんどん変わっていきます。レコード屋が無くなっていくように、町の姿もITの進化とともに変化していくわけです。
それに加えて、弊社には米国事業もあります。物流不動産投資という切り口で案件ベースで一緒にやっていこうというパートナーがいますので、機会があれば米国の物流不動産についても検討していきたいと考えています。我々としては先ほど申し上げた運用残高300億円から500億円を当面の目標として、物流不動産あるいはセルフストレージを含めた保管型不動産を中心に取り組んでいくつもりです。プロとして強みを発揮できるフィールドのなかで最大限の事業展開を行なってまいります。

Question 8

セルフストレージにも昨今ご注目されているとお伺いしております。新しいアセットタイプとしての取り組み方針やその魅力及び将来性に関してお聞かせください。

峯田社長:日本ではトランクルームという名前で定着していますが、海外ではセルフストレージというアセットとして定着しています。アメリカでは上場リートが数社あり、1社は1兆円程度の資産規模になっています。日本でも市場成長が期待されていますが、私がその話を最初に聞いてから実はもう10年は経過したかと思います。手間がかかるアセットの割には、月の賃貸料は一部屋数千円から1万円、2万円というアセットであるため、なかなか商売につながりにくいのです。アメリカや欧米は車社会で大型の荷物の出し入れも多いのですが、このスタイルは日本では通用しませんでした。当社自身も他社さんと共同で3物件ほどトランクルームの開発をしたことがありますが、思うようにリーシングが伸びず、採算ラインでの安定賃料という目論見が外れました。ただ、部屋数を積んでノウハウを蓄積できれば、中小企業にとっては良いビジネスになると思います。昨年12月に不動産特定共同事業法が施行され、小口の資金活用ができるようになったことから、宅建業者も外部資金を頼ってトランクルームを複数経営できる道筋ができました。これをひとつの良い機会と捉えて、自分たちも独自に資本を入れていくような目途をつけてこのアセットを独立したひとつの魅力あるアセットに育成する良いチャンスではないかと思います。これは先ほど申し上げた環境変化の話の延長になりますが、インターネットで物を買う人が増えている一方で、ラストワンマイルの配達が問題になっております。再配達を防ぐため宅配ボックスをどこに置くか、さらにはトランクルームとのつながりなどが議論される機会が増えてくると思っています。現在日本のトランクルームの市場規模は700億円程度ですが、かつて、30年、40年ほど前のコンビニエンスストアがそうだったように、セルフストレージも身近な存在になっていくと信じています。当然、当社単独ではやりきれないものですから、まずは協会を設立して仲間を増やしていきたいと思います。まずはマーケット分析・情報提供などを行ないつつ、勉強会やセミナー開催などの普及活動に努めたいと思います。

山田:国内セルフストレージ事業発展のため、協会での取り組みなど順次始まっているかと思うのですが、その点のお話も伺えればと思います。

峯田社長:協会を今年4月に設立予定であり、御行をはじめその趣旨にご賛同いただける方々より参加検討をいただいております。協会としての目標、それと当社をはじめ参加するメンバーのメリットという2つの観点があります。一般社団法人としてセルフストレージ証券化推進協会と命名してスタートするわけですが、我々の生活を向上させること、利便性を高めることで便利な世の中にしていこうというのが協会としての目的の一つです。それから協会を通じて資本を導入する機会を設けていくわけです。業界としてアセットを増やすためにはオペレーターに開発していただかなくてはならない訳ですから、我々は資金調達の機会やその手段をプレーヤーの方々に提供することが重要だと考えています。アセットの数が多くなれば、一つの市場となり、出口の受け皿となるファンドもできていきます。協会としてはフレームを用意していくという立場になると思いますが、それぞれのプレーヤーは経済条件などで調達先の選択は自由です。協会としては市場を作っていくことが大きな目標です。

Question 9

今後、新生銀行グループに期待することを教えてください。

峯田社長:2号ファンドは開発型になる予定であり、土地を先行取得する必要があります。ノンリコースローンでの借入にシフトするまでのブリッジファイナンスというニーズがまず存在します。

もうひとつは、先ほどお話しがありましたセルフストレージの分野ですが、新しいアセットですので、資産評価に加えてオペレーターの持つリスクなども分析していただく必要があります。こちらも色々と情報をご提供させていただきながらのご相談と考えております。当社はこのアセットに関する国内での先駆者になりたいと思っていますので、サポートをいただけましたら幸いです。

村田:弊行へのご期待ありがとうございます。セルフストレージに関しては、弊行としても非常に注目している分野です。アセットサイズとしては小規模ですが、マーケットとしては確実にニーズがありますから、その発展に貢献していければよいと考えております。

(2018年2月)

以 上