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経常収支偏重論は時代遅れ

キヤノングローバル戦略研究所特別顧問(元日本銀行政策委員会審議委員) 須田美矢子 氏

キヤノングローバル戦略研究所特別顧問
(元日本銀行政策委員会審議委員)
須田美矢子 氏

2013年の日本の貿易赤字は、比較可能な1948年以降で最大となり、2014年第1四半期もこの流れが止まっていない。経常収支は所得収支の大幅黒字で黒字となったが、2013年の黒字は1985年以降で最少であった。2013年第4四半期から2014年第1四半期にかけて経常収支が赤字化したこともあり、最近、経常赤字を巡る悲観論が目につく。

経常収支

円安による輸出数量効果は顕現せず

経常赤字懸念が高まった背景には、20%超の円安のもとでも昨年の貿易赤字が前年比65%も増えたことがある。しかも数量は輸出が1.5%減、輸入が0.5%増で、本来の動きとは逆である。Jカーブ効果が考えられるが、この効果は、数量が逆方向に動くことを基本的には想定していないので、これで先行きを占うわけにはいかない。

輸出・輸入数量指数と米ドル円為替レート

20%超の円安でも輸出が増えないのは、輸出先の通貨表示の市場価格に販売価格を合わせる価格設定行動によるとの見方もあるが、これは目新しいものではない。日本企業のこの価格設定行動はかつて「悪名高き」と評されたこともあったが、今日では、このような価格設定は経済学的にも合理的な行動と位置付けられている。また、輸出増には生産制約がある可能性があるので円安効果の方が出にくいという面もある。
輸出減少の構造的要因としては、生産の海外シフトや日本企業の競争力の低下などが指摘できるが、今回の経験では、1年で2割超の円安になってもその期待される効果が顕現化していないこと、つまり、円安による数量効果がそれほど強くないことに目を向ける必要がある。

経常収支と貯蓄投資バランス

経常収支悲観論の中には、資源がない日本では、経常赤字はそもそも許容できないという見方がある。大幅な貿易赤字を解消できるとして原発再稼働と結びついた議論もある。より多いのが、財政赤字と経常赤字との双子の赤字論だ。
一国の資金余剰は対外投資に向けられ、必要な外貨は経常収支黒字によって調達されるので、一国の資金余剰=経常黒字となる。財政債務問題が今日まで顕現化しないのは、赤字を国内資金でファイナンスできている、つまり財政赤字(資金不足)<家計・企業部門の資金余剰であり、経常黒字であるからだ。経常赤字となると、不等号が逆になり、海外資金に頼る必要があるので政府債務問題に火がつくとの懸念だ。

経常収支の恒等式

また、結果的には経常収支調整を為替レートに頼れないことにも注意が必要だ。
構造的な経常収支を考える場合、各部門の資金余剰、つまり貯蓄投資差額からみるとわかりやすい。完全雇用のもとで、貯蓄や投資が実質為替レートの影響を受けないとし(為替レート効果を考慮にいれても分析の大筋は変わらない)、海外で実質金利が決まり内外金利が一致するとすると、貯蓄投資差額は国内の構造的な要因で決定され、それに経常収支が一致するように為替レートが調整される。構造的な要因で貯蓄投資が変化すると、それに伴い経常収支が変化する。その意味で経常収支は残差項だ。

したがって少子高齢化で貯蓄が低下しその結果として貯蓄投資差額が負となったら、国際収支発展段階説(※1)が示唆するように経常赤字は避けられない。他方、国内に成長期待がなく貯蓄の低下以上に国内投資も下がれば、高齢化で貯蓄が下がっても経常黒字は続きうる。ただし経常黒字の経済が必ずしも活力ある経済を意味するとはいえない。

※1 国際収支発展段階説
国際収支が経済の発展に伴い段階を追って変化していくとする考え方
「成熟した債権国」は、賃金上昇などで対外競争力が低下して貿易赤字となる一方、所得収支の大幅な黒字に支えられ、経常収支の黒字は維持される。次の発展段階では、経常収支・貿易収支が共に赤字となる「債権取り崩し国」に進むとしている。
(参考:内閣府)

円安コストにも目をやり、円安・経常黒字待望論から卒業する必要

成長戦略にも経常収支の捉え方の修正をせまる要素がある。一つは海外からの対内直接投資を含む国内投資の増大だ。それは日本の生産性上昇のためには必要であるが、貯蓄投資差額からみて基本的に赤字要因だ。もう一つは、資本移動性の高まりである。ホームバイアス(※2)の強い家計や機関投資家のリスク資産への誘導は、内外の投資家行動を均一化させることになろう。財政赤字の問題について、経常収支黒字の間は時間かせぎができるとか、貯蓄残高の範囲に政府債務があれば大丈夫だとかは資本移動性が低い世界の話だ。内外投資家がグロスで資本を流出入させている中で、その動きが強まると、財政赤字が経常黒字でネットでは国内でファイナンスできているから大丈夫という議論は出来なくなる。
経常収支の背後にある各部門の貯蓄投資差額の持続可能性に問題があるのであればそれに対処する必要がある。他方で、円安コストにも目をやり、円安や経常収支黒字待望論からそろそろ卒業する必要がある。

※2 ホームバイアス
投資家が、海外資産に比べ国内資産への投資を選好すること
(参考:内閣府)

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