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中央銀行の破られる「約束」

野村総合研究所 金融ITイノベーション研究部長 井上哲也 氏

野村総合研究所
金融ITイノベーション研究部長
井上哲也 氏

中央銀行の「約束」:フォワード・ガイダンス

きちんと守られると思うから、「約束」は信じられるはずです。では、そうでなくなったらどうなるでしょうか?

先進国の中央銀行は、金融危機による景気の大きな落ち込みと戦うために様々な工夫をしてきた中に、将来の政策を予め「約束」するものがあります。フォワード・ガイダンスという語を見聞きした方もおられるでしょう。経済には「一寸先は闇」という面があるので、中央銀行もその時々の情勢を見つつ政策を変えるのが普通です。そこでなぜ先のことを「約束」するかというと、政策金利を下げられなくなったからです。普通、中央銀行は政策金利を下げて景気を刺激しますが、日本も米欧も、政策金利を下げるうちゼロになってしまいました。そこで、今の政策金利が下げられないなら、将来の政策金利をゼロにすることを「約束」する工夫が出てきた訳です。

主要先進国の中央銀行によるゼロ金利政策とフォワード・ガイダンス(2008年以降)

「約束」の効果

この「約束」に期待された役割は2つあります。第一に、中長期の金利を抑えることです。おおまかに言って、中長期の金利は(将来の)短期金利の平均になります(※1)。このため、中央銀行がゼロ金利政策を続けると「約束」する期間の金利は押し下げられます。第二に、金利変動を小さくすることです。市場の金利を動かす要因の一つは、今後の政策金利の不確実さにあります。ある期間は政策金利がゼロのまま変わらないなら、その分だけ市場の金利を動かす要因が減ります。

※1 例えば工場や家を建てるのに、最初から長い資金を借りるか、1年物の資金を借りて毎年更新するか選ぶことを考えれば、前者と後者(予想)の金利は等しくなるはずです

実際、「約束」がなされた国の中長期金利は低めに抑えられ、その変動も概ね小さなものに維持されました。もちろん、中央銀行は国債などの買入れを通じた巨額の資金供給も行ったので、「約束」だけの手柄にするのはフェアでないでしょう。しかし、今や中央銀行にとって欠かせない工夫となったことは、日米欧全てで実施されていることが何よりの証拠です。

日米英独の10年国際金利の推移(2008年以降)

破られる「約束」

ところが、ここへきてこの「約束」は問題を露呈しています。失業率がある水準まで改善するまでゼロ金利政策を続けると「約束」してきたイングランド銀行と米国連邦準備制度理事会が、各々の「約束」を事実上放棄しました。理由は、各々の中央銀行が、失業率は改善しても、景気全体が満足する程に回復していないと判断したからです。判断が正しかったかどうかは措くとしても、何が起こればゼロ金利政策が終了するかは、以前に比べてはるかに不透明になりました。

米英の中央銀行によるフォワード・ガイダンスの変更

「約束」を巡る問題は米英だけに生じた訳ではありません。確かに、日銀は2%のインフレ目標を安定的に達成するまで現在の金融緩和を続けるという「約束」を変わらず維持しています。その一方で、日銀の見通し通りに来年度も再来年度もインフレ目標を達成した場合に、現在の金融緩和をどうするかは何も語っていません。2年も先のことを考えるのは「鬼が笑う」かもしれませんが、市場は常に先を読んで動くものです。

これからは、米英だけでなく日本でも、中央銀行に政策の先行きを示してほしいという要望が強まるかもしれません。だからと言って、中央銀行が新しい「約束」を示したとしても、次々に変えられる「約束」は信じてもらえるでしょうか。先進諸国の中央銀行が金融危機前の金融政策に戻っていく上では、「約束」に代わるものを見出し、それを活用することも新たな挑戦になることでしょう。

各稿は各執筆者が執筆時点の経済その他の状況ならびに見解を踏まえて作成したものです。 また、各稿は情報提供を目的としたものであり、お客さまに特定の投資方針や相場観等を推奨するものではありません。 各稿は執筆時点の信頼できると思われる情報に基づいて各執筆者が作成しておりますが、情報の正確性、完全性が保証されているものではありません。 ご投資にあたっては、お客さまご自身の責任と判断で行っていただきますようお願いいたします。

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