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公的年金積立金運用とコーポレートガバナンス改革

早稲田大学大学院 ファイナンス研究科 教授 米澤康博 氏

早稲田大学大学院
ファイナンス研究科 教授
米澤康博 氏

コーポレートガバナンス改革

年金積立金管理運用独立行政法人(以下GPIFと略称)改革が盛んに議論されている。もっぱら株式の保有比率を上げるとするならば株価がどの程度上がるかといった視点からの議論である。仮に比率を上げるのであればその効果は無視できないのであろうがそれは一過性の可能性が高く株式リターンから見れば極めて短期的な効果となろう。
それに対して見逃せない重要な事項がある。それはGPIFがJPX日経400指数ファンドと、日本版スチュワードシップコードとを採用した点である。いずれもすでに実施されている事項であり、これらは今後、企業経営のあり方、強いては日本経済に対して重要な影響力を持つと期待される。JPX日経400指数はROE(※1)基準等を中心に400社の企業を選び、指数化しているので相対的に高ROE企業が選ばれている。JPX日経400の採用が広く認識されると400企業に対する名声が高まり、企業側にそこに選ばれるようにとの強いインセンティブが働くことが期待できる。すなわちTOPIX企業全体に対してROEを高めるような強いインセンティブが働くことになるし、その例は見受けられ始めている。この効果は日本版スチュワードシップコードによっても補強され、これら改革のことをコーポレートガバナンス改革と呼ぶこともある。

  • ※1:ROEとは…Return On Equityの略称。自己資本利益率(以前は株主資本利益率とも)。自己資本(株主資本=株主による資本)が、企業の利益にどれだけつながったのかを示しています。一般的にROEが高いほど資本を効率よく使い、利益を上げる経営がなされているとされます。
JPX日経インデックス400
  • (データ元:東証 作成:(株)新生銀行 金融調査部)
日本版スチュワードシップ・コード
  • (データ元:金融庁、各種報道 作成:(株)新生銀行 金融調査部)

ROE上昇がTOPIXリターンに与える効果

ROE上昇効果をマクロ経済的に見ることにし、とりわけそれがTOPIXリターンに与える効果を中心に過去の実証結果から数量的に確認しよう。マクロ的に見るとROE自体は極めて為替レート、特に円ドルレートに依存してきたことがわかる。円高になるとそれは低下し、円安になると上昇する訳で、これはわれわれの直感とも合う。しかも長期的には円高であったのでその間企業全体のROEは低下してきたのである。高度成長の終焉もあるが為替レートの上昇がより直接的であった。

東証一部ROEと米ドル円為替レート推移
  • (データ元:東証  作成:(株)新生銀行 金融調査部)

この認識の下で簡単なマクロ経済モデルを構築して金利、TOPIXリターン、実質経済成長率等がいかに決まるかを把握しよう。そこでは金利は資本(成長率)に対する需要と供給とによって決まるとし、その成長率が実質経済成長率になると想定する。この過程ではROEの高まりは主に資本の需要を刺激するとなる。

マクロ経済モデル上での各変数間の関係イメージ
  • (作成:(株)新生銀行 金融調査部)

関心事のTOPIXリターンの対金利スプレッド(これは平均的にはリスク・プレミアムに他ならない)は実質経済成長率とROEとによって決まることが実証される。以上のシステムの下、明らかになることは為替レートがTOPIXリターンに対して決定的に重要であることがわかる。シミュレーションの結果、為替レートが100円程度であるとTOPIXリターンは平均的に4.5%程度が見込めるのに対し、120円程度まで安くなるとリターンは7.7%まで高まる。他方、80円まで上がるとリターンは1.4%となり、この場合にはリスク・プレミアムは0となる。
ここでJPX日経400効果に話題を戻して、それによって為替レート100円の下でROEが1%ポイント高くなると想定するとTOPIXリターンは5.4%に高まることが期待できる。TOPIXリターンがROEに依存しているのであるからリターンが高まるのは当然であるが、重要な点はROEが高まった場合には実質経済成長率も2%から2.3%に高まるので両効果からリターンを後押しするのである。この過程では賃金も高まることになるので決して従業員の犠牲の上でのROE上昇、TOPIXリターン上昇ではないのである。

実質成長率も上昇
  • (作成:(株)新生銀行 金融調査部)

GPIFの運用が、経営者の意識改革につながる仕組みを作りつつある

経済政策の目標を如何に置くかに関しては議論の余地は多く、GDPではなく消費で評価すべきであろう等、再考の余地はあるものの、やはりわかりやすいのは経済成長率であり、GPIFにおいてはTOPIXリターンである。その際にこれまでの伝統的な金融財政政策、あるいは規制緩和政策と並んで企業の資本生産性、すなわちROEを高めるようなガバナンス改革政策が有効であることを示した。TFP(全要素生産性)を高める政策に比較してROE、あるいはROA(※2)を高める政策に関しては教科書的な回答もあるのでそれほど難しいとは思われない。あとは経営者の意識の問題であろう。その意識改革につながる仕組みをGPIFの運用が作りつつあることは魅力的である。

  • ※2:ROAとは…Return On Assetsの略称。総資産利益率。企業に投下された総資産が、利益獲得のためにどれだけ効率的に利用されているかを示しています。一般的にROAが高いほど総資本を効率的に運用しているということになります。

各稿は各執筆者が執筆時点の経済その他の状況ならびに見解を踏まえて作成したものです。 また、各稿は情報提供を目的としたものであり、お客さまに特定の投資方針や相場観等を推奨するものではありません。 各稿は執筆時点の信頼できると思われる情報に基づいて各執筆者が作成しておりますが、情報の正確性、完全性が保証されているものではありません。 ご投資にあたっては、お客さまご自身の責任と判断で行っていただきますようお願いいたします。

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