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アベノミクス3年目、2015年の日本経済展望

政策研究大学院大学 教授 伊藤隆敏 氏

政策研究大学院大学
教授
伊藤隆敏 氏

アベノミクスは日本経済を大転換させたが

もうすぐアベノミクスも3年目に入る。これまでの2年間で、アベノミクスは日本経済を大転換させた。インフレ率はマイナスからプラスに転換、ドル円は80円台から110円台へ円高是正がおこなわれた。日経225種株価も8,500円から17,000円台とおおよそ倍のレベルへと上昇した。成長率は、アベノミクス直前のマイナス成長から、アベノミクス1年目は急回復した。

米ドル円は80円台から110円台へ円高是正、日経225種株価はおおよそ倍のレベルへ上昇
  • (データ元:Bloomberg 作成:(株)新生銀行 金融調査部)

2年目に入って、消費税率引き上げによる駆け込み需要(第1四半期の成長率は、対前期比年率換算、プラス6.7%)と反動減(第2四半期、マイナス7.3%)があったため、経済が安定的に潜在成長率を達成する成長軌道に戻ったかどうかは、このコラムを書いている時点では分からない。反動減からの経済回復は予想よりも弱い(第3四半期マイナス1.6%)ものの、時間とともに潜在GDPの経路に近づいていく可能性は高い。
さらに、アベノミクス第3の矢である成長戦略による潜在成長率自体の引き上げは、もう少し先になりそうだ。

アベノミクス2年目は消費税率引き上げによる駆け込み需要と反動減が見られる
  • (データ元:総務省 作成:(株)新生銀行 金融調査部)

GDPギャップもアベノミクスの2年間でほぼゼロ近くまで改善、雇用も業種(産業セクター)によっては人手不足が顕著になってきた。労働者全体の実質賃金は低下しているものの、家計の所得や消費支出はプラスに転じた。マクロの指標は、夏から秋にかけて改善しているものと、弱含んでいるものが、混在している。第4四半期の数字がよければ、アベノミクス3年目の景気回復の可能性が高まる。

驚愕の日銀の量的緩和の追加的拡大

3年目の経済を予想するうえで、大きな出来事が10月31日から、11月中旬にかけておきた。
10月31日に、9月分の対前年同期比のインフレ率が発表された。インフレ率(2014年4月の消費税引き上げの直接的影響を除くコアCPI、以下同じ)は、1.0%となり、4月の1.5%からの低下が続いていることが確認された。黒田総裁は、4〜5月の段階では、夏場にかけてインフレ率は若干下落するも、年末あたりからGDPギャップの逼迫を受けて、上昇に転ずると予想していた。夏場にかけてのインフレ率の下落は、2012年末から2013年5月にかけての大幅な円安による輸入インフレの影響が剥落することによる、更に、年末からのインフレ率上昇は、GDPギャップがほぼゼロ近傍から上昇を続けることによるインフレ率の上昇、と説明された。黒田総裁はさらに、インフレ率は夏場になって下落することはあっても、1%を割ることはない、と述べていた。
実際には、黒田総裁の予想どおり、インフレ率は下落を続けていたが、下落は日銀の予想したペースよりも早いペースで、起きていた。それは原油価格の下落が予想よりも継続していたためで、決して日本の実体経済にとっては悪くない環境であった。そのことを裏付けるように、エネルギー価格を含まないコアコア・インフレ率(※1)は、4月以降、一定である。学者、市場関係者を含めて、この日の日銀金融政策決定会合では、誰もが、日銀の金融政策は「現状維持」を予想していた。

  • ※1 食料(酒類を除く)及びエネルギーを除く総合
     (総合から除かれる食料は、米類、生鮮食品、鶏卵に加え、菓子類など酒類以外の他の食料すべてである。) 出典:総務省「消費者物価指数」
原油価格の下落により、日銀の予想したペースよりも早いペースで物価は下落
  • (データ元:Bloomberg 作成:(株)新生銀行 金融調査部)

ところが、10月31日の13時44分に発表になった金融政策の変更は、驚愕であった。日銀は、量的緩和の追加的拡大(QQE2)を決定した。一年間の資産買い入れ額は次のように増額された。国債は約80兆円(これまで50兆円)、ETFは3兆円(これまで1兆円)、REITsは900億円(これまで300億円)とする、全体としてマネタリー・ベースが年間約80兆円に相当するペースで上昇する。この決定の理由について、日本銀行は、次のように説明している。インフレ率が、消費の落ち込みや原油価格の大幅な下落によりコアCPIインフレ率が、4月以降下降気味であり、デフレマインドの転換(期待インフレ率の2%に向けての継続的上昇)が遅れるリスクを回避するために、追加緩和をする。
日銀の追加緩和の発表後ただちに、円安、株高が進行、市場は歓迎した。ドル円レートは、追加緩和発表(13:44)前に109円40銭程度で推移していたものが、午後6時ころには、111円50銭を越えるまで、2円の円安が進行した。日経平均も同様に追加緩和の発表前には、15,900円近辺であったものが、午後3時の終値は、16,400円を越える、約500円の株高となった。

延期された消費増税

このように、アベノミクスは、10月末時点で、順調に推移していたように見えた。次の焦点は、2015年10月に、法律が定めた通り消費税税率を8%から10%に引き上げることを確認するかどうか、であった。10月の段階では、中期的な財政の健全性回復のためには、増税やむなしという意見が多かった。10月31日の日銀の追加緩和は、黒田総裁は一言も言及しなかったが、安倍総理の増税を後押しする意味があったと多くの人が受け止めた。金融を大幅に緩和して景気の後押しをするので、増税しても景気の悪化を防ぐ、というメッセージが込められていると理解された。
ところが、11月9日に読売新聞が1面で、「増税先送りなら解散、首相検討、年内にも総選挙」と書いた。そして、それを追うかのように、11月12日には、各紙に、与党幹部が選挙準備を指示、という見出しが並び、「増税延期をして、解散総選挙」という話が現実味を帯びた。11月17日に発表された、第3四半期の成長率は、対前期比年率換算で、マイナス1.6%であった。これは、民間予想の中心、プラス2.2%をはるかに下回る数字で、これで雰囲気は、一気に増税延期に傾いてしまった。11月18日に安倍総理が、消費税率引き上げの一年半延期(2017年4月に8%から10%への引き上げ)と解散総選挙(12月2日公示、14日開投票)を発表した。安倍総理は、増税延期はするものの、2017年4月の増税法案には、景気弾力条項はつけない、また、2020年のプライマリー・バランスの均衡達成目標は維持する、そのための方策を2015年夏までに策定する、とした。

2014年第3四半期GDPは-1.6%民間予想の中心2.2%をはるかに下回る
  • (データ元:内閣府、Bloomberg 作成:(株)新生銀行 金融調査部)

2015年展望・達成すべき課題とは

これらの重要な政策変更を加味して2015年を展望すると、次のようになる。まず2015年1月から始まる通常国会では、2017年に向けた増税法案、2014年秋の臨時国会で廃案になった女性活躍推進法案などを再度上程、可決成立させることが必要である。それと平行して集団的自衛権関連法案、さらにGPIFのガバナンス改革法案など成長戦略法案を可決成立させることが必要だ。日銀の追加緩和の効果が浸透して、景気回復が進むと予想される。2015年に入れば、インフレ率も上昇に転じるであろう。問題はインフレ率と成長率がどこまで上昇するかだ。狙い通り、成長戦略の傾向で、潜在成長率を引き上げることが重要だ。
日本経済の現在の実力(2000年以降の平均)は、潜在成長率0.7%である。つまり、景気回復期は、1〜2%成長であっても、成長戦略がなければ、長期的には、1%成長を下回る可能性が高い。原油価格の下落も止まるであろうし、労働需給の逼迫も続くので、インフレ率は上昇に転ずるであろう。
2015年〜16年で、達成すべき課題がいくつかある。第一に、インフレ率の2%目標を達成することである。さらに、期待インフレ率でも2%に近づくことが重要だ。これが、日銀が異次元緩和による資産買い入れの拡大を止めて、金融資本市場を正常な状態に戻す端緒とする条件である。第二に、はっきりとしたプライマリー・バランスの均衡回復条件を明示することである。財政を詳細に検討すれば、社会保障関連歳出の抑制と10%から15%への消費税増税のどちらか、あるいは組み合わせが必要となることは、すぐ分かる(伊藤隆敏、『日本財政「最後の選択」』、日本経済新聞社、近刊参照)。その道筋を示すことが大切だ。これまでも、両側が断崖絶壁の狭い道を通って目的地へ向かっていたのだが、近道ということで、ますます狭い道に入り込んだ。これが、2014年年末の感想だ。どうか、追加緩和と増税延期、総選挙で獲得した政策を決めるうえで自由度の高い2年間(2015〜16年)を有効に使って、積年の課題をすべて片付けて欲しい。

2015年〜16年に達成すべき課題

各稿は各執筆者が執筆時点の経済その他の状況ならびに見解を踏まえて作成したものです。 また、各稿は情報提供を目的としたものであり、お客さまに特定の投資方針や相場観等を推奨するものではありません。 各稿は執筆時点の信頼できると思われる情報に基づいて各執筆者が作成しておりますが、情報の正確性、完全性が保証されているものではありません。 ご投資にあたっては、お客さまご自身の責任と判断で行っていただきますようお願いいたします。

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