マーケット情報

米国の利上げを展望する上でのポイント

野村総合研究所 金融ITイノベーション研究部長 井上哲也 氏

野村総合研究所
金融ITイノベーション研究部長
井上哲也 氏

焦点を絞る

国内外を問わず金融市場で最大の関心事が、米国の連邦準備制度理事会(FRB)による利上げであることに異論はないでしょう。読者の皆様も日々考えを巡らせる一方で、情報の洪水に圧倒されているかもしれません。そこで、FRBの考え方をもとに、今後の利上げを展望する上で気をつけたい点を説明します。

ポイント1:物価と雇用のウエイト

FRBは物価の安定と雇用の最大化を目指して金融政策を運営します。つまり、物価について個人消費支出物価で2%のインフレ率を長期の目標とする一方、雇用は失業率で5.2〜5.5%が長期に正常な水準とみています(※1)。これらの目標については、金融政策の声明文に両者をバランスよく重視する考え方が明記されています(※2)。つまり、どちらか片方を達成しても直ちに利上げする訳ではないという考え方であり、実際、インフレ率は目標に程遠い一方、失業率は既に長期的に正常な水準です。

  • ※1 この点が最も明確に示されているのは、FRBによる"Statement of Long-Run Goals and Monetary Policy Strategy"(2014, 2015)です。なお、物価と雇用で微妙に位置づけが違うのは、中央銀行は長い目で見て物価をコントロールできますが、雇用は金融政策以外の要因にも大きな影響を受けるという理解を反映しています。
  • ※2 例えば、本年4月の声明文では第5パラグラフの冒頭をご覧ください。
図1: インフレ率(左図 前年比%)と失業率(右図 %)
  • (資料:米国商務省、米国労働省、米国連邦準備制度理事会)

だとすれば、利上げを展望する上では、毎回の雇用統計に大きく振り回されるには及ばないことになります。金融危機以来、どうしても雇用に目が向きがちですが、今や重要なのは物価の方です。

ポイント2:インフレ期待

インフレ率が急減速したことには、原油安とドル高による輸入価格の下落が大きな影響を与えています。しかし、ドル相場は、市場が欧州の景気回復を評価すれば多少は流れが変わるかもしれません。原油価格も底打ちが確認できれば、来年にかけてインフレ率へのマイナスの寄与が減衰します。重要なことは企業や家計のインフレ期待が変化するかどうかです(※3)。輸入価格の下落に伴ってインフレ期待も低下すると、他の価格や賃金も下がり、長い目で物価を引き下げるからです。

  • ※3 これは、黒田総裁が日本経済について言っていることと本質的に同じです。
図2: 企業の価格判断と家計の予想インフレ率(ISMサーベイ<左図 DI>とFRBNY調査<右図 %>)
  • (資料:米国供給管理協会、ニューヨーク連邦準備銀行)

実際、FRBは原油安やドル高による影響は一時的と評価し(※4)、インフレ期待も実際のインフレ率ほどは減退せず、長い目で見て安定しているとみています。つまり、FRBは物価の実勢がさほど弱くないとみている訳です。

  • ※4 FRBが金融政策を決める会議(連邦公開市場委員会<FOMC>)の3月分の議事概要では、9頁の最初の部分にこの点に関する説明がみられます。

ポイント3:データ依存

FRBは声明文などを通じて、利上げを「決め打ち」せず、経済情勢に基づいて判断することを強調しています。これは「データ依存」と呼ばれますが、この表現は誤解を招きやすい面もあります。なぜなら、FRBは景気指標自体でなく、景気指標から推測される米国経済のトレンドをもとに利上げを判断します。それは、利上げが投資や消費に影響を及ぼすまでに時間がかかるので、影響が現れる頃の経済を見通して政策を決める必要があるからです(※5)。そうではなく、過去の景気指標だけに基づいて政策を運営する事は、バックミラーだけをみて車を運転するように危険なことです。

  • ※5 例えば、Yellen議長の講演テキスト("Normalizing Monetary Policy: Prospects and Perspectives": March 2015)の5ページ冒頭をご覧ください。
図3: 連邦公開市場委員会メンバーによる見通しの分布(インフレ率<左図 前年率%>と失業率<右図 %>)
  • (資料:米国連邦準備制度理事会)

ということは、利上げを展望する上では、個々の景気指標を深読みしすぎないようにすることが必要です。大切なことは、物価に関わるものを中心に多くの指標を並べてみて、そこから共通のトレンドを推測することなのです。

各稿は各執筆者が執筆時点の経済その他の状況ならびに見解を踏まえて作成したものです。 また、各稿は情報提供を目的としたものであり、お客さまに特定の投資方針や相場観等を推奨するものではありません。 各稿は執筆時点の信頼できると思われる情報に基づいて各執筆者が作成しておりますが、情報の正確性、完全性が保証されているものではありません。 ご投資にあたっては、お客さまご自身の責任と判断で行っていただきますようお願いいたします。

すぐにお取引

口座をお持ちの方 ログイン 口座をお持ちでない方 口座開設

まずは相談する

お店で相談する

来店予約

お近くの店舗を探す

受付時間:平日9時〜17時

  • 受付時間は店舗により異なります

お電話での相談

0120-456-007

受付時間:24時間365日

音声ガイダンスのご案内