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世界を覆う「チャイナ・シンドローム」

日本経済新聞社 編集委員 滝田洋一 氏

日本経済新聞社
編集委員
滝田洋一 氏

世界経済と国際金融の舞台を中国リスクという妖怪が徘徊している。中国が世界第2位の経済大国であるにもかかわらず、政策運営が不透明であるからだ。来年にかけての日本経済や株価、為替の行方を占う上でも、この問題からは目を離せない。

弱り目にたたり目の当局

ピークから3週間で3割あまりの下落となった上海株安。6月半ばからの中国株バブルの崩壊は、1990年の日本株バブルや2000年の米ナスダック(IT株)バブルの崩壊に比べても、はるかに急スピードだった。自ら株高を後押ししてきた当局は、なりふり構わぬ株価の防衛に出ている。
共産党の首脳と長老たちが北京近くの保養地、北戴河(ほくたいが)で毎夏開く非公式の国家戦略会議でも、経済運営は最重要議題になった。ところが、その重要会議のさなかに、北京の目と鼻の先にある天津市で、爆発事故が起き多数の死傷者を出した。海の玄関口である天津港は、機能不全に陥った。
重要会議の最中の大事故だけに、現地では陰謀説さえささやかれている。反腐敗キャンペーンで攻勢をかけてきた習近平主席に対し、江沢民氏グループがこの事故を機に反攻に転じるのではないか。チャイナ・ウォッチャーの間では、そんな解説も飛び交っている。
権力抗争の成り行きはともかく、中国経済が失速気味なのは間違いないだろう。人民元の切り下げの背景にも、そうした景気低迷がある。

図1 中国上海総合指数と人民元
  • (出所)Bloomberg、新生銀行金融調査部作成 (2015年8月24日現在)
  • (注)人民元はオフショア市場のデータを使用。これは中国本土内のオンショア市場の人民元に対し、 中国本土外(主に香港)で流通している、クロスボーダー貿易決済にかかる規制や為替レート変動制限等の ない人民元を指します 。

4〜6月期の実質成長率は前年同期比7.0%増だったが、エコノミストからは疑義が呈されている。自動車販売の急速な落ち込みをみると、尋常一様ではない。日本の貿易統計にもその様子が映し出されている。
中国向けの自動車輸出額は、6月、7月と前年同月比で16%近く減少した。ドイツのフォルクスワーゲンや韓国の現代自動車などの現地販売の落ち込みは、日本車より大きい。現代自に至っては、7月からは中国市場での月間販売実績の公表を取りやめたほどである。

世界に及ぼすインパクトは

中国の実質成長率が1%ポイント低下した場合、他のアジア諸国の成長率はその翌年、0.3%ポイント低下する。国際通貨基金(IMF)はそんな試算をはじいている。影響が大きいのは、韓国、マレーシア、台湾、タイ。反対に相対的に打撃が小さいのは、日本やインドという。
確かに付加価値ベースの貿易(TIVA)という物差しを使って、対中輸出の国内総生産(GDP)比をはじくと、韓国などでは「対中輸出>対米輸出」となっている。中国がモノやサービスの最終需要先となっているからで、その分だけ中国失速に伴う打撃も大きくなる。
そうしたリスクを織り込んでのことだろう。韓国の株式や債券から、外国人投資家の資金が大量に流出している。7月の流出額は4.88兆ウォンと、2011年8月の5.8兆ウォン以来の高水準となった。日本の場合は、尖閣摩擦が不幸中の幸いなり、ここ数年は対中投資が抑制されてきた。

図2 韓国総合株価指数
  • (出所)Bloomberg、新生銀行金融調査部 (2015年8月24日現在)

とはいえ中国経済が失速した場合には、アジア諸国を経由した二次的な波及が懸念される。仮にアジア経済全体が下振れするようだと、下期の景気シナリオもゼロベースで見直す必要が出て来る。
もうひとつ目を凝らすべきは、原油など国際商品市況の崩落である。昨年秋の原油安はシェール革命といった供給要因と、新興国需要の減少という需給両面が作用していた。それに対し今回の商品市況下落は、中国需要の低下見通しが決定的な引き金になったというべきだろう。
WTI原油が1バレル40ドルをも割った「逆石油ショック」は、資源輸入国である日本にとっては、所得の海外流出を押さえるボーナスのようなもの。黙ってメリットを享受しておけば良いが、問題は原油収入の減少によってただでさえ不安定な中東情勢が一段と危うくなる事態だ。
9月にかけて市場の関心は、米連邦準備理事会(FRB)によるゼロ金利解除を見送り、どのような金融安定策を出すかに集まろう。それは当然として、様々な方向に影響が波及する中国リスクは、最大の鬼門である。利上げによる米ドル高ならまだしも、金融パニックによるドルへの資金逃避となると、世界の株式市場はちゃぶ台返しとなりかねない。誰よりもまず、中国当局にはしっかりしてもらいたい。

各稿は各執筆者が執筆時点の経済その他の状況ならびに見解を踏まえて作成したものです。 また、各稿は情報提供を目的としたものであり、お客さまに特定の投資方針や相場観等を推奨するものではありません。 各稿は執筆時点の信頼できると思われる情報に基づいて各執筆者が作成しておりますが、情報の正確性、完全性が保証されているものではありません。 ご投資にあたっては、お客さまご自身の責任と判断で行っていただきますようお願いいたします。

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