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社会保障給付費の伸びは消費税率1%分に相当 〜財政再建のカギ握る社会保障改革〜

法政大学教授 小黒一正 氏

法政大学教授
小黒一正 氏

戦後70年の節目の年(2015年)が終わり、新たな一年(2016年)がスタートした。2016年という新年を展望する場合、同年夏の参院選も控えている中、日本経済が抱える最も大きな課題の一つが、「増税判断」である。つまり、現行8%の消費税率を2017年4月に10%に引き上げるか否かの政治判断である。
では、なぜ増税判断が重要なのか。それは、政府は昨年6月末、「経済財政運営と改革の基本方針2015」(いわゆる「骨太方針2015」)を策定し、この中で「新たな財政再建計画」を閣議決定しているからである。新たな財政再建計画では、2020年度までに国と地方を合わせた基礎的財政収支(以下「PB」という)を黒字化する従来の目標のほか、2つの目安を設けている。

第1は「PBに関する目安」で、2018年度のPBの赤字幅を対GDPで1%程度にするというものである。第2は「国の政策経費である一般歳出の伸びに関する目安」で、今後3年間で一般歳出の実質的増加を1.6兆円(内、社会保障関係費の実質的増加を1.5兆円)に抑制する基調を2018年度まで維持するというものである。
このような状況の中、第2の目安との関係で注目されたのが、新たな財政再建計画の初年度予算として昨年12月に編成された「2016年度予算案(国の一般会計)」の中身である。
2016年度予算案の歳出規模は96.7兆円で過去最大であるが、対2015年度で一般歳出の伸びを約4,700億円、社会保障関係費の伸びを約4,400億円としている。第2の目安を達成するためには、3年平均で年間の一般歳出の伸びを約5,300億円(=1.6兆円÷3年)、社会保障関係費の伸びを約5,000億円(=1.5兆円)に抑制すればよいので、新聞等のマスコミ報道では、2016年度予算案(国の一般会計)における一般歳出や社会保障関係費の伸びは「計画ペースに沿った増加幅」という評価も多く見られた。
確かにその通りであるが、第1の目安との関係では楽観的な評価の可能性が高い。なぜなら、内閣府は2015年7月の経済財政諮問会議において、「中長期の経済財政に関する試算」(いわゆる中長期試算)の改訂版を公表しているが、同試算によると、楽観的な高成長(実質GDP成長率が2%程度で推移)の「経済再生ケース」でも、政府が目標とする2020年度のPB黒字化は達成できず、6.2兆円の赤字となることが明らかになっているからである。
しかも、この「経済再生ケース」は、2017年4月に消費税率を10%に引き上げていることが前提となっている。このため、もし2017年4月の増税を先送りすれば、2020年度のPB赤字幅は拡大し、2020年度のPB黒字化のハードルは一層上昇してしまう可能性が高い。また、2018年度のPBの赤字幅を対GDPで1%程度にするという目安の達成も危うい。
なお、新聞等のマスコミ報道では、2016年度予算案の「社会保障関係費」の伸びのみに注目が集まるが、国や地方等が負担する「社会保障給付費」の伸びの方が重要である。2015年度の社会保障給付費(予算ベース)は116.8兆円(内:年金56.2兆円、医療37.5兆円、介護9.7兆円)であるが、この財源は保険料収入64.8兆円や国庫負担31.8兆円、地方負担12.8兆円等で賄われている。国の一般会計予算案で注目する社会保障関係費は、基本的に社会保障給付費の国庫負担に相当し、社会保障給付費の一部に過ぎない。
しかも、国や地方等が負担する社会保障給付費は、2006年度から2015年度の10年間で約26兆円、つまり年平均で約2.6兆円のペースで増加している。他方、消費税率1%の引上げで手に入る税の増収分は、約2.7兆円と言われている。即ち、社会保障給付費は、消費税率1%の増収分に相当するスピードで伸びており、これは社会保障改革の重要性―「社会保障改革なくして財政再建なし」―を示唆するものである。
2016年は夏の参院選や増税判断も控えている重要な年であるが、新たな財政再建計画の達成に向け、そのカギを握る社会保障改革の推進等、より踏み込んだ政策展開を期待したい。

図表:社会保障給付費の推移
  • (出所)国立社会保障・人口問題研究所「社会保障費用統計(平成25年度)」及び厚労省資料から作成

各稿は各執筆者が執筆時点の経済その他の状況ならびに見解を踏まえて作成したものです。 また、各稿は情報提供を目的としたものであり、お客さまに特定の投資方針や相場観等を推奨するものではありません。 各稿は執筆時点の信頼できると思われる情報に基づいて各執筆者が作成しておりますが、情報の正確性、完全性が保証されているものではありません。 ご投資にあたっては、お客さまご自身の責任と判断で行っていただきますようお願いいたします。

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