マーケット情報

J-REITはリスクに見合う以上のリターンを上げてきたか?

一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授 大橋和彦 氏

一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授
大橋和彦 氏

金融危機への対応やアベノミクスによる金融緩和を背景に、近年、J-REIT(日本版不動産投資信託)の価格は他資産を上回る勢いで上昇してきたように見える。本稿では、標準的な資産価格モデルであるCAPM(資本資産価格モデル)を用いて、市場が求めるリスクプレミアム以上のリターンをJ-REITが上げてきたかどうかを評価しつつ、J-REITのリスク・リターン特性の諸論点を議論する。

J-REIT価格の変遷:金融危機への対応と価格の上昇

J-REITは、2001年9月の市場創設以降急速な成長を遂げ、サブプライムローン問題やリーマンショックが引き起こした2007年からの金融危機の影響を大きく受けたものの、危機への様々な対応やいわゆるアベノミクスによる金融緩和を背景に、2010年以降は再びその価格を順調に上昇させてきた。J-REIT指数(東証REIT指数)、TOPIXおよび不動産業指数(東証不動産業株価指数)の系列を示した以下のグラフからもこのことが見て取れる。(*1)

J-REIT指数、TOPIX、不動産業指数
  • (出所)Bloomberg

一方、グラフからは、TOPIXと不動産業指数のどちらに対しても、2010年以降のJ-REITの価格上昇が突出しているように見える。この背景には、安定した配当を支払うJ-REITが低金利によって投資対象としてより魅力的になり、投資家の需要が増えたことがあるだろう。また、日本銀行が金融緩和推進のため2010年12月からJ-REITの購入を開始し、その後も「量的・質的金融緩和」の導入(2013年4月)、同拡大(2014年10月)の一環として購入規模を大きく増やしてきたことにも時期が一致している。特に、この日銀によるJ-REITの累積購入額は、2016年1月末現在で約2,800億円に上っており、2016年1月末現在のJ-REIT時価総額がおおよそ11兆円であることと比較しても、決して小さい数字とは言えないであろう。

日本銀行によるJ-REIT購入累積額(億円)
  • (出所)日本銀行

J-REITはリスクに見合う以上のリターンを上げたか?

では、ここに見られるJ-REITの価格上昇は、本当に突出しているのだろうか。言い換えるなら(おそらくは上記の政策等によって)、J-REITは他の資産に比較して説明がつかないほど高いリターンを上げてきたのであろうか。この点を探るため、市場が求めるリスクプレミアム以上のリターンをJ-REITが上げてきたかどうかを確認したい。そのために、標準的な資産価格モデルであるCAPMでは説明できないリターンをJ-REITが上げたかどうかを調べてみよう。(*2)
念のために述べておくと、CAPMは一般に資産の(無リスク利子率に対する)期待超過リターンが市場ポートフォリオの期待超過リターンの線形式で表されるとするモデルであり、ここではJ-REITの超過リターンを市場ポートフォリオの超過リターンに線形回帰したとき、推定された切片の値(アルファ)が有意にゼロより大きければ、J-REITは市場が求めるリスクプレミアム以上のリターンを上げていたことになる。(*3)
調査の結果、日銀のJ-REIT購入が開始された2010年12月から2015年12月までの期間について、推定されたCAPMに関するJ-REITのアルファの値は正(0.69)となったが、そのP値(本当の値はゼロなのに誤差のせいで推定値がその値(0.69)になる確率)は25%超もあり十分には確からしくないことがわかった。よって、同期間においては、J-REITは市場が求めるリスクプレミアムよりも有意に高いリターンを上げていたとは言えない。つまり、J-REITはそのリスクに対して特に突出して高いリターンを上げていたわけではなかったということになる。(*4)
こう言われると投資家としては嬉しくないかもしれないが、これはJ-REITの上げたリターンが(少なくとも市場ポートフォリオとの比較において)リスクに見合った適正なものであった―J-REIT市場における価格形成が適正であった―という意味で良いニュースと考えられる。実際、同様の分析を他の期間に対して行ってみると、市場創設直後の2003年4月から2007年7月までの期間においては、J-REITのリターンは有意に正のアルファを得ていたが、2007年8月以降はアルファが有意にゼロとは異ならないことが確認できる。

表組
  • (P値が10%以下ならば推定値は有意にゼロと異なると言える。)

つまり、上記のグラフに見られる市場創設初期の価格急上昇時においてはJ-REITはリスクに見合う以上のリターンを上げていたが、2007年後半に始まった価格下落からはJ-REITの価格形成が成熟化することで適正なリスク・リターンの関係が成立するようになり、現在もそれが続いていると考えられる。

政策の影響の可能性

では、日銀がJ-REITを購入するというような政策はJ-REITのリスク・リターン特性に全く影響を与えていないと言って良いのだろうか。必ずしもそうではないだろう。実際、表に示されるように、黒田総裁による「量的・質的金融緩和」が開始された2013年4月以降、J-REITのベータ(無リスク利子率に対するJ-REITの超過リターンの市場ポートフォリオの超過リターンに対する感応度)は(1.08から0.57へと)大きく下落し、J-REITの変動が市場全体の変動の影響を受けにくくなったことが観察される。市場リスクプレミアムが一定であれば、J-REITのリスクプレミアムも下がることになる。また、たとえJ-REITと市場ポートフォリオの相対的関係が変わらなかったとしても、量的・質的金融緩和が市場全体に影響を及ぼして全体のリスクプレミアムを下げていた可能性もある。さらに、2016年1月以降の大規模な株価下落に対してJ-REIT価格がそれほど下げなかったように、J-REITの価格が堅調である背景には、(もちろん金利の下落の影響が大きいものの、)もしかしたらJ-REITの価格が低下すれば日銀が購入するであろうという投資家の予想があるかもしれない。本稿の単純な手法の範囲を越えるが、これらは詳細な分析に値する問題である。

J-REITの個々の特徴とリターン特性

最後に、以上ではJ-REIT市場全体の特性を捉えようとしたが、個々のJ-REITの特徴が各々のリスク・リターン特性に与える影響を知ることも重要である。日銀による購入という観点から見るならば、その購入条件を満たすJ-REITとそうでないJ-REITの間のリスク・リターン特性には違いがあるかもしれない。また、これまでの研究において、業歴の長いスポンサーを持つJ-REITと短いスポンサーを持つJ-REITの間では、金融危機の影響や新規物件取得における市場の評価に違いがあることが観察されている。(*5)本来、市場に摩擦が無ければ、導管体としてのJ-REITの価値は保有資産の特性と市場が求めるリスクプレミアムで決まるはずだが、それ以外の要因がJ-REITの価値評価に影響しているとするならば、その精査がJ-REIT市場の特性のより正確な理解に通じるであろう。

  • (*1)東証REIT指数が利用可能となった2003年4月以降を記載している。
  • (*2)CAPM:Capital Asset Pricing Model
  • (*3)(ただしは、各々時点tにおけるJ-REITのリターン、市場ポートフォリオのリターン、無リスク利子率、攪乱項)という回帰式を推定して得られたαが正の値を取り、かつP値(本当の値はゼロなのに誤差のせいで推定値がその値を取る確率)が十分小さければ、J-REITは市場が求めるリスクプレミアムよりも有意に大きいリターンを上げていたと判断する。
  • (*4)J-REITリターンは東証REIT指数から計算される月次リターンを、無リスク利子率、市場ポートフォリオ超過リターンは、Kenneth Frenchダートマス大学教授が公開する月次リターンを用いた。また、同教授が公開する(バリュー株効果とグロース株効果の差を表す)HMLファクター、(小型株効果を表す)SMBファクターのリターンのデータを加えて行ったFama-French 3 ファクターモデルによる分析でも同様の結果を得た。
  • (*5)例えば、大橋・澤田・大坪「J-REIT 収益率へのスポンサー企業の影響 ―イベント・スタディによる分析―」2012年、不動産証券化協会 を参照。

各稿は各執筆者が執筆時点の経済その他の状況ならびに見解を踏まえて作成したものです。 また、各稿は情報提供を目的としたものであり、お客さまに特定の投資方針や相場観等を推奨するものではありません。 各稿は執筆時点の信頼できると思われる情報に基づいて各執筆者が作成しておりますが、情報の正確性、完全性が保証されているものではありません。 ご投資にあたっては、お客さまご自身の責任と判断で行っていただきますようお願いいたします。

すぐにお取引

口座をお持ちの方 ログイン 口座をお持ちでない方 口座開設

まずは相談する

お店で相談する

来店予約

お近くの店舗を探す

受付時間:平日9時〜17時

  • 受付時間は店舗により異なります

お電話での相談

0120-456-007

受付時間:24時間365日

音声ガイダンスのご案内