マーケット情報

世界が読めぬ中国経済の変化のうねり

日本経済新聞社 編集委員 滝田洋一 氏

日本経済新聞社
編集委員
滝田洋一 氏

伊勢志摩サミットを前に官邸で開いている「国際金融経済分析会合」。注目された第3回会合には、ノーベル経済学賞受賞者のポール・クルーグマン プリンストン大学名誉教授が出席した。本来なら非公開なはずの議事録がクルーグマン氏自身のツイッターで明かされた。

クルーグマン教授の懸念

なかでも目を引くのは、中国に対するコメントだ。とても悲観的なのである。「中国経済は爆発寸前(simmering)である」「非常に高水準の投資主導の経済は続けられない」「中国の政策運営もふらふらしている(erratic)」といった具合だ。「中国は大きな困難の最中にある」ともいう。
安倍晋三首相や麻生太郎財務相は、先進7ヵ国(G7)が主導する世界経済の立て直しを考えている。クルーグマン教授の分析に膝を打ったに違いない。とはいえ、2016年に入り一段とはっきりしてきた世界経済の鈍化の背景には、中国の失速がある。その影響からは目が離せない。
中国をみるうえで難しいのは、株式バブルの崩壊や過剰設備・過剰債務など負の側面と、消費主導の経済への構造転換という前向きの動きが、混在していることである。後者の側面について、座布団1枚と言いたくなる、オーストラリア発の面白い指摘がある(ブルームバーグ3月28日)。
豪ビタミン剤メーカー、ブラックモアズの株価が大きく上昇している。中国でも健康への関心の高まりから、ビタミン剤などのサプリメント(栄養補助食品)の売れ行きが増しているからだ。日本での爆買いの人気商品が化粧品や薬品なのと通じるところがある。
オーストラリア産牛肉もしかり。15年の中国向け輸出は9億1,700万豪ドルと、3年間で6倍になった。中国人観光客はオーストラリアにも足を延ばしている。昨年の訪問客は200万人に達した。中国人の消費は結構底堅く、世界経済を潤しているのが分かる。
中国の小売売上高は15年10〜12月期には前年同期比11.2%増えた。電子商取引に限れば、15年7〜9月期に同32.6%伸びている。中国の小売に占める電子商取引の割合は12.3%にのぼり、日本の5.5%の2倍以上であるばかりでなく、英米の7%台をも大きく上回っている。

○ 中国経済の構造変化 〜第三次産業が拡大

中国GDP(前年比)と各産業の寄与度
  • (出所)内閣府「月例経済閣僚会議」資料(2016年3月)、新生銀行 金融調査部
  • (注)各寄与度については2015年第3四半期まで

募る構造転換に伴うコスト

こうした消費が中国経済の下支え要因となるのは間違いない。にもかかわらず、日本を含め世界が中国経済の失速に、敏感となるのはなぜか。ほかでもない。中国が投資と輸出主導で成長していたころと比べて、消費主導の成長となると、相対的に海外からの輸入が減るからである。

○ 落ち込む中国の輸出入

中国の輸出入推移(前年比)
  • (出所)内閣府「月例経済閣僚会議」資料(2016年3月)、新生銀行 金融調査部
  • (注)1〜2月のみ合算

鉄鋼など素材産業は大量の石炭や鉄鉱石を輸入し、家電をはじめ組立加工産業は日本などから電子部品や半製品を輸入していた。それが落ちている。2月の日本の鉱工業生産が前年同月に比べ6%余り減ったのも、中国でのスマートフォン生産の落ち込みが影を落としている。
これに対し消費財は、全体としてみれば、現地でつくられたものが中心だ。かくて中国の貿易は1〜2月で輸出が前年同期比17.8%減、輸入は同16.8%減と、かなりのペースで落ちている。中国をめぐる貿易取引に伴うモノやカネの動きが縮小する結果、世界の景気も冷え込んでいるのだ。
もちろん、中国当局も手をこまぬいているわけではない。3月5〜16日に開かれた全国人民代表大会(全人代)でも、16年の実質成長目標を6.5〜7%という現実的な水準に引き下げたうえで、様々な対策を打ち出した。注目されるのは財政政策を前面に打ち出したことだ。
営業税から付加価値税への全面的な切替えを通じた減税。各種料金の免除(0.5兆元)、インフラ投資(鉄道0.8兆元、道路1.7兆元)などが目玉である。その結果、財政赤字は5,600億元増え、財政赤字の対GDP比は15年に2.4%だったものが、16年は3%前後に拡大する。
鉄鋼、石炭などのゾンビ企業の整理も課題となる。中国当局もその意向を示すが、性急なリストラに踏み切れば深刻な失業問題を引き起こしかねない。バブル崩壊後の日本を思わせるジレンマに、今の中国は直面している。矛盾のはけ口は、人民元安を容認し、海外に販路を求めることだろう。
消費に向けた経済構造の転換と、負の遺産である過剰設備・過剰債務の処理には、数年単位の期間を必要とする。そのプロセスは昨年始まったばかり。中国発のデフレと人民元安が誘発するアジアの通貨切り下げ競争には、日本の経営者も投資家も家計も身構えておく必要がある。

各稿は各執筆者が執筆時点の経済その他の状況ならびに見解を踏まえて作成したものです。 また、各稿は情報提供を目的としたものであり、お客さまに特定の投資方針や相場観等を推奨するものではありません。 各稿は執筆時点の信頼できると思われる情報に基づいて各執筆者が作成しておりますが、情報の正確性、完全性が保証されているものではありません。 ご投資にあたっては、お客さまご自身の責任と判断で行っていただきますようお願いいたします。

すぐにお取引

口座をお持ちの方 ログイン 口座をお持ちでない方 口座開設

まずは相談する

お店で相談する

来店予約

お近くの店舗を探す

受付時間:平日9時〜17時

  • 受付時間は店舗により異なります

お電話での相談

0120-456-007

受付時間:24時間365日

音声ガイダンスのご案内