お金は嫌い、経済も嫌い。それでも今は「投資=自然な行動」だと思う。

――細野さんにとって「お金」とは? また、数学講師でいらっしゃる細野さんが、経済や投資に関心を持たれたきっかけは何だったのでしょうか?

細野真宏氏

 たしかに、私は経済や投資の本をいくつも出版していますが、元々はお金の話が大嫌いだったんです。中学生のときに親の会社の関係で大きな事件があって、それで周囲がお金をめぐって態度を豹変させたことがきっかけです。深夜の無言電話など、さまざまな嫌がらせに苦しめられて、「人というのはお金でこんなに変わるものか」と思い知りました。それと同時に「お金とは怖いものだ」と認識するようになったんです。

 その後もずっと、お金はイヤだ、怖いという意識がつきまとい、なるべくお金に関わらないように生きていました。とはいえ、仕事をするようになれば、お金のことを避けて通ることはできません。私の仕事における姿勢はシンプルで、現時点の自分にできることを最大限の努力でやる。だから、自分が最大限頑張れるような仕事でないと、いくら高い金額を提示されようと最初からやらないんです。その意味では、世間的なお金を稼ぐのとは逆の行動なんでしょうね。世の中には適当なところで折り合いをつけながらやっていったほうが効率的な仕事は多いですからね。正直なところ、金額を知らないでやっている仕事がほとんどなんです。いくらだろうと、引き受けたからには最大限いいものを作る。時給換算ではめちゃくちゃ低くなる仕事も多いと思いますが、このような職人的な気質はこれからも変えようがないのですね(笑)。普段はプライドがないので、何を言われてもあまり気にしないんですが、仕事に対するプライドだけはあるんです。仕事のビジネス面での客観的な評価というのは、結局のところ、数字としてのお金に集約される面があります。だから、評価である「数字」としてのお金には関心はもつのですが、お金自体は大嫌いなんです。ただ、そんなバランスの悪い状態だと、残念ながら実際に「事件」は起きてしまうんです。

 大学を出たくらいのとき、私は某出版社の社員らと会社を作り、予備校立ち上げなどに関わっていました。仕事は懸命にやりましたが、反面で報酬についてはかなり無頓着でした。もちろん、お金の話は事前に済ませてありましたが、お金は嫌いだったので通帳は一度も見ず、ずっと振り込みの確認をしていなかったんです。それから何年も経って、ふとしたきっかけで調べてみたときに、ほとんど約束通りに報酬が振り込まれていなかったり、さらに会社のお金がほとんど私的に使いこまれていたりしたことがわかったんです……。それから裁判などの行動をとらざるを得ず、さらにお金嫌いは深刻になったわけです。

――今はご自身で株式投資をなさっているということですが、そんな状態から投資を始めるに至るまでには、どのような経緯があったのでしょうか?

 ずっと、自分で投資をしようという発想はありませんでした。数年前までは株はギャンブルだと思っていましたからね(笑)。私が投資を始めたのは、ある映画を見てからです。見終えた瞬間に大ヒットを確信すると同時に、「せっかくちょっと先の世の中の動きを見通せたのに、このままではもったいない」と思ったんです。そこで、かつて自分が雑誌などに書いていた「株式投資はちょっと先の世の中が見通せたときに有効です」という言葉を思い出したんです。そして、映画の関連の株を買い、その後、実際に映画は大ヒットして、私が買った銘柄の株価は上昇しました。その経験から、投資をするというのは何も特別なことではなく、自分の日常的に考えたり感じたりしていることを「応用」できる、日常生活の延長線上にある極めて自然な行動なんだと納得できたんです。

 重要なのは、自分の実感です。私の場合はきっかけは映画でしたが、車好きなら「この車が売れそう」でもいい、とにかく自分が良さを実感したものに投資するべきだと思います。誰かに「儲かるよ」と言われて投資するのではダメ。何でも自分の頭で考える習慣を身につけ、最低限の経済知識があれば十分だと思います。

情報はすべてテレビから。少ないニュースを咀嚼することでも経済の全体像が見えてくる。

――その最低限の経済知識でさえ、身につけるのは大変だと感じる方も多いかもしれません。細野さんは、どのようにして経済知識を習得されたのでしょうか?

細野真宏氏

 私はお金だけでなく、経済にもまったく興味がなかったんです。新聞は言うまでもなく、経済ニュースも一切見ていませんでしたし、おかげで大学4年生くらいまで円高・円安すら知りませんでしたから(笑)。ところが、大学4年のときからテレビの超有名なニュース番組のブレインスタッフを務めることになって。仕事で給料を毎月もらう以上、ニュースくらいは見なければと、そのニュース番組を見るようになったんです。

 しばらくニュースを見ているうちに、だんだんと経済の仕組みがわかるようになってきました。それと同時に、ニュース番組を作っているテレビ局の人たちも、実は経済ニュースの本質を理解していないのではないか、と感じるようになったんです。伝えるほうがわかっていなかったら、視聴者なんてもっとわからないですよね。

 その流れで『経済のニュースがよくわかる本』を書きました。かつて経済がまったくわかっていなかった自分自身が読みたいと思うような、ゼロからはじまって、最終的には最新の難しい経済まで理解できる本を作りたいと思ったんです。といっても、私自身は経済の本をまったく読まずにここまで来ているのですが……。そもそも、活字が嫌いなんです。いまだに新聞も取っていませんしね。よく「テレビのニュースの知識だけで本を書いた」というと驚かれますが、これは紛れもない真実です。たとえば今なら『経済のニュースがよくわかる本』で基本的な経済の全体像を確認した上で、テレビ東京系列の『ワールドビジネスサテライト』あたりを毎日見るだけで、経済に必要な知識は十分に身に付きますよ。

――テレビだけの情報で、そこまで経済について明確に理解するためには、何か秘訣があるのですか?

 情報は少しで十分、重要なのは少しの情報をムダにしないことです。私は経済の専門家の皆さんより情報源が少ないかもしれませんが、今や経済についてはかなり詳しく語れます。それは、1つ1つの情報を「これはどういうことで、どういう意味を持つのか」と常に頭の中で整理することで、全体像を見通せているからだと思います。10のニュースがあったら1個ずつ見極めてみる。すると、本質は同じだったりするものです。だから、本質さえ見抜ければ、残りの9個は実質的に同じものなので、ニュースは1個で十分といえます。

 とかく、大人になると物わかりがよくなりますが、知らないのが恥ずかしいと思ったり、中途半端でわかったつもりになったりするのはダメですね。子どもは「何で? 何で?」とわかるまで質問をするでしょう。それと同じように、少しでもわからないことは曖昧にせず、質問したり、調べたりして解決すべきです。私は何のプライドもないんで、今だってわからないことはすぐに「何で?」って聞いていますよ。まるで口癖のように(笑)。

 さて、投資についてですが、私は日本国内の投資対象にターゲットをしぼっていますが、それは海外の投資対象だと情報が少なく、解決できない疑問点が多いため、上昇しそうだという実感が持てないからなんです。BRICsなどの新興市場国への投資が話題ですが、私にとってこれらの国々は、生活したことのない未知の場所。確かに将来的に大きく成長し得るポテンシャルはあると思いますが、だからといって敢えて投資してみようとは思えないんです。

 もちろん、仕事の関係でBRICsなどに精通している人だとか、現地も訪れBRICsなどに惚れこんでいるような人であれば、投資しても問題ないと思います。でも、単に「誰かが儲かると言ったから買う」という人は、自分の頭でじっくり考えてみてください。たとえば、かつて絶対に経済破たんしないと言われていたロシアのような大国や高い経済成長で注目されているアジア諸国でも、この10年で見ても、いきなり大規模な経済危機に陥り、「ロシア危機」や「アジア通貨危機」といった形でデフォルト(財政破たん)やデフォルト寸前にまで陥ったことがあるんです。ここ最近の高成長の話しか知らない人には信じられないのかもしれませんが、経済とはそういうものなのです。そういったベースになる知識を持っていれば、安易に他人の意見に乗っかるようなことには、かなり慎重になれるはずです。

――最後に、個人投資家へのアドバイスをお願いします。

 今、「貯蓄から投資へ」の動きが加速していると言われますが、私はそうは思えません。ここ1年ほどの経過を見ても、まだまだ日本の個人投資家は未成熟な気がします。貯蓄から、「投資」ではなく「投機」のほうに進んでいるようにも見えます。

 株価が上昇していた2〜3年前は、「今買わないとソン」みたいな風潮で、市場は活況でしたが、ライブドア・ショックやサブプライムローン問題で低調になると、「為替がどうもいいらしい」ということでFXに飛び移る人が増えました。とはいえ、特にここ数年は日本の超低金利の余波や投機マネーが増えていることもあって、為替がどちらに動くというのは見通しが難しく、市場がいびつで予想が難しい異常な状況が続いています。短期的にもかつてなかった振れ幅で乱高下したり、不確定なことが起こりすぎるので、リスクが高すぎる。そんな状況で、高いレバレッジをかけて「円高か、円安か」にかけるということは、まさしく「丁か、半か」の「投機」に他ならない面が強いように思います。

 経済というのは、絶対に良い時もあれば悪い時もあるんです。そのため「投資」というのはあくまで「中長期で考えるべき」というのは、誰もがわかっていたはずです。ところが、現実にはサブプライムローン問題などが起こると慌ててしまう人が多く出てしまっているのです。そして、株が低調だからFXをやる、ダメだったら別のもの、というように、結局は「短期での運用」になってしまっていて、キズが広がるばかり。このように軸が安定していなく、すぐに右往左往してしまうようでは、いつまでたっても成熟した投資家にはなれません。まして、自分の買った株や投信が元本を割ったからといって、簡単にぐらつくようでは問題だと思います。もちろん、長期間待ち続けるのは大変なことですが、ここで耐えられる人が最終的には成功し得るということを歴史が証明してると思います。このように「わかる」というのは、体得できて初めて「わかった」といえるものなんです。つまり、「投資は中長期で考えるべき」という基本が本当に「わかった」のかが、まさに今、問われている状況だと言えますね。