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株価推移の振り返り 〜明らかに異なる日本株の動き
まず、昨年夏以降の日本株式市場の特徴を考えるために、「日経平均」、「ニューヨーク・ダウ」、「上海総合指数」について、(1) 昨年6月29日(ちょうど1年前)、(2) 今年3月17日(日経平均がこの1年で最安値をつけた日)、(3) 直近6月30日の株価指数を拾い出してみます。日本株の代表的指数に加えて、ニューヨーク・ダウは欧米株の代表、上海総合指数は新興国株の代表といった観点です。
| 2007年6月29日 | 騰落率 | 2008年3月17日 | 騰落率 | 2008年6月30日 | |
|---|---|---|---|---|---|
| 日本株式 (日経平均株価) |
18,138円 | -35% | 11,787円 | 14% | 13,481円 |
| 米国株式 (ニューヨーク・ダウ) |
13,408ドル | -11% | 11,972ドル | -5% | 11,350ドル |
| 中国株式 (上海総合指数) |
3,821ポイント | 0% | 3,820ポイント | -28% | 2,736ポイント |
それぞれの相場推移はおおむね以下のとおりでした。
<日本株式: 日経平均>
昨年夏場の高値から今年3月中旬に向けて「大きく下落」、その後は世界的に見て相対的に強調。サブプライム・ショックの影響をもっとも「早く」、「大きく」受けたという相場推移であった。
<米国株式: ニューヨーク・ダウ>
昨年夏場の高値水準を秋まで保った後、3月中旬のいわゆる「ベア・スターンズ・ショック」時に大きく下落。その後「さらに下落歩調」。金融機関の損失が想定以上に大きいという懸念と景気後退懸念、企業業績の不振が原因。
<中国株式: 上海総合指数>
昨年夏のサブプライム・ショック時の下げは小さく、その後秋にかけて夏場の高値を大きく更新。今年3月中旬時点の下落率は、昨年秋の高値からは日本株とほぼ同様の規模であったが、昨年夏の水準への下落程度で留まっていた。しかし、3月中旬以降の下げが大幅なものとなっている。「成長期待」のマインドが低下、資金が株式市場から急速に流出したことを示している。
日本株の推移はアメリカ株の推移とも、新興国株の推移とも「明らかに違って来ている」と言えるでしょう。
※株価指標、チャートのご確認は、マーケット情報を御利用ください。
その違いは何から来るものか?
サブプライム・ショックに対して「真っ先に」、「最大の規模で」下落、という反応を見せた日本株が、その後、他の市場に比べて優位となったかに見える要因は何か? これが今後の日本株相場を見るうえでの大きな「キーポイント」になると思います。
3月中旬までは「日本のひとり負け」といった印象だったのですが、その原因は以下の2点であったと私は思っています。
(1) 需給要因
サブプライム問題の深刻化 → 金融収縮 → ヘッジファンドの資金調達力低下 → 保有株の売りが必要に → 2005年以降大量に保有していた日本株売り(日本株は流動性などから売りやすかった) → 日本株下落
(2) マクロ要因
サブプライム問題の深刻化 → 米景気の拡大が鈍化する懸念 → 世界景気の拡大が鈍化する懸念 → 「世界の景気敏感株」として日本株への懸念 → 日本株売り → 日本株下落
上記2つの要因のうち、(2) の理由はよく言われることですが、個人的には (1) の需給要因の方がはるかに大きかったと見ています。これが、3月中旬以降は次のように変わったと思います。
【1】日本経済・日本企業のパフォーマンス
資源高・原材料高の環境(世界的なインフレ傾向)の中での日本経済や日本企業の相対的な優位性の認識(過去のオイルショック時の日本経済・日本企業のパフォーマンス実績) → 日本株買い → 日本株上昇(相対的上昇)
【2】需給の改善
3月中旬に至るまでの外国人の大量売り → 結果、ヘッジファンドなどの短期保有者の売りが一巡 → むしろ買いが超過するようになった → 日本株上昇(相対的上昇)
加えて、前3月期決算においては、まだ不十分ではありながらも、多くの企業が「株主配分※性向」を引き上げるといった「株主に顔を向けた経営姿勢」を示したことも、日本株への買い需要を増やし、売りを抑制したといえるでしょう。
※株主配分=企業があげた利益のうち、株主に分配される部分こと。配当金と自社株買い金額の合計額。
今後の見通し 〜証券分析の観点から〜 鍵は「株主配分」
問題は、「今後も相対的優位」を日本株が保てるかどうか?です。日本経済は今年度は総じて足踏み状態に終始すると予想されます。連れて企業業績は若干の減益が避けられないでしょう。そうした中で、株価が順調に持続的にさらに上値を追う上昇トレンドを描く、とはなかなか想定しにくいところです。しかし、上記のように今年3月中旬以降「かなりはっきりして来た」日本株の「相対的優位」は、今後も持続できるのではないかと思っています。(今後数ヵ月ではっきり答えが出るはずですが。)
例えば、自動車産業での米国GM社の苦境とトヨタ、ホンダの(相対的)好調の理由は何か? 省資源・省エネルギーという観点からしますと、明らかに日本の自動車メーカーは強いということでしょう。このことは過去において事実であったといえるし、今後もその通りだ、と考えることができるのではないでしょうか。
世界的に株式相場は向こう数ヵ月は総じて調整気味の展開が予想されます。日本株も同様で目立った上昇を期待することはなかなか難しいと思っておく方がいいのだろうと思います。ただ、そうした冴えない相場展開の中で「次の相場のリード役」が徐々にはっきりして行くと見ることができるように思います。
現状の「資源高」、「原材料高」、「食料品高」、「環境問題の深刻化」などを見れば、株式市場の参加者が注目するテーマがこうしたものになりそうだと予想することができるでしょう。過去、「日本経済の将来にとってIT産業が重要」というコンセンサスの上に「IT関連株相場」があり、「資源価格の高騰への対応が重要」という見方の上に、現在も進行中の「資源関連株相場」があった、と言えます。同じような発想で、「省資源」、「省エネルギー」、「環境関連」といったキーワードの相場がやがて到来するのではないかと想定することができるでしょう。
ただ、株式相場はテーマだけで成り立つものではなく、企業収益の裏づけが必要です。IT相場の際には、IT関連企業の目覚しい成長(売上・利益の増加)がありましたし、資源関連株の上昇の背後には三菱商事などの総合商社の大増益がありました。例えば、原油高によって「相対的に優位となった」原子力発電関連で、三菱重工や東芝が注目されるわけですが、三菱重工や東芝が「原子力発電関連事業の拡大で利益を大きく増加させることができる」と思われるようになって初めて、本格的な上昇相場が可能なのです。そうした「市場の期待」に関連企業が応えてくれるかどうか。これから数ヵ月をかけて注視して行くべきだろうと思います。
それからもう一つ。相場の材料にはなりにくいのですが、日本企業の「株主重視姿勢の前進」にもいっそう注目すべきです。現時点で東証一部上場銘柄は1,700社強ですが、そのうち約750銘柄は
PBRが1を下回っています。つまり市場で形成されている株価が、その会社の1株当たり純資産(1株当たりの自己資本)より小さいということです。PBR1倍割れ銘柄が企業数で4割強を占める状態は「割安」と言えばその通りなのですが、むしろ異常というべき状況でしょう。ある程度長期にわたって株を保有しようとする投資家は株価の持続的上昇を望むわけですが、こうした低PBR状態を見れば、「PBRがもう少し大きくなる」という形での株価上昇も可能なはずだ、と思うのではないでしょうか。
PBRは、分解すれば、
ROEと
PERを掛け合わせたものになります(図1参照)。予想される当面の経済情勢、企業収益の見通しからして現時点のPER(市場平均でおおむね15倍の水準)が妥当だとして、PERの上昇を期待しないとしても、ROEが大きくなれば、ROE×PERで計算されるPBRは大きくなるはずです。 また、「株価=PBR×1株当たり純資産(図2参照)」ですが、純資産はそう簡単に変動しないと仮定すると、PBRが大きくなるということは、つまり株価が上昇することを意味します。


なお、ROEは分子の「1株あたり利益」が大きくなれば大きくなります。「1株当たり利益」は企業の利益が大きくなれば大きくなるのですが、発行済み株式数を少なくすることでも大きくすることができます。つまり、企業が自社の株式を買い取って消却すれば会社の利益は同じでも「1株あたり利益」は大きくなるのです。これに加えて、分母の「1株あたり純資産」を減らす(あるいは増加テンポを小さくする)戦略を併せて実施することでROEは大きくなります。具体的には、必要資金を借入金でまかなうことで純資産の比率を減らしていくのですが、これはトヨタのような優良企業でも採られている財務戦略です。
このような方法を採ることで、企業の利益が同じであったとしても、ROEは上昇します。ROEが大きくなれば、PERが一定でもPBRは大きくなります。したがいまして、株価が上昇する可能性が出てくるのです。
配当と自社株買いを合わせて「株主配分」と言いますが、株主配分としての自社株買いを実行すれば、株価が上昇する可能性が強いのです。これはまさに、この数年わが国企業が重要視して実行して来た施策です。今後そうした行動(株主配分の増加)をますます強化するとすれば、株価には好材料となり得ます。
前回コラムの結論と同様ですが、向こう数ヵ月をかけて株式の保有を徐々に増やして行くという対応は、十分に納得のできる合理的な行動になると思います。

- 証券アナリスト 松下 律
- 日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)。1976年から四半世紀にわたって国内系及び外資系運用会社でアナリスト、ファンドマネジャーを歴任した後、現在は証券アナリストとして個人投資家向けの情報提供を中心に活動。著書に「年金がわりの株式投資成功法」(講談社、2001年)、「決算書を見れば『儲かる株』は見分けられる」(共著、こう書房、2002年)、「定年族のための株式投資術」(PHP研究所、2005年)がある。現在、衛星放送チャンネルBS11の番組「TOKYOマーケットTODAY」で木曜日のメイン・キャスターを務めている。
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