World Report
戸松信博の「ベトナム現地レポート」
2008/5
第3回:個人投資家が取引の大部分を占めるベトナム市場
株式市場の低迷で閑散とする証券会社の様子
株式市場の低迷で閑散とする証券会社の様子

ベトナムの株式市場は日本と大きく異なっており、売買高の7〜8割を個人投資家が占めています。もちろん、外国機関投資家の方が資金量は多いのですが、これらの機関投資家は長期投資がメインですから、基本的に一度買ったら売らないことが多いのです。逆に、ベトナムの個人投資家は短期投資が中心です。このため、機関投資家に比べて資金量は少ないものの回転売買をしますので、売買高に占める比率は高くなります。

ベトナムは中国同様、株式市場がはじまってから歴史の短い国ですから、個人投資家は主に短期売買を主軸とし、「目先の材料や噂」を元に売買する傾向があります。

そして、これが現在のベトナム株を実体以上にオーバーシュートさせて下落させる大きな要因の1つとなっているのではないかと思われるのです。

ベトナムの株式総会の様子。株価が下落しているため、今年の株式総会では「株式配当」を嫌い、「現金配当」を要求する個人投資家が多い。
ベトナムの株式総会の様子。株価が下落しているため、今年の株式総会では「株式配当」を嫌い、「現金配当」を要求する個人投資家が多い。

先日、ベトナムに視察に行った際に、このことを強く印象付けられる出来事がありました。

私がホーチミンにいるときに、突然、知り合いの証券ブローカーから「大手上場企業のA株をほぼ市場価格の半値レベルで100万株買わないか?」(日本円にしておよそ2億5000万円程度)」という電話がかかってきたのです。

このような話を聞くと、「誰かがインサイダーかなにかで悪い情報を聞いて、急いで売却しようとしているのではないか?」と勘ぐりたくなるところです。100万もの株数を市場で値を崩さずに売却するのは難しいため、半値でもいいから大口の投資家に一気に売却したいという意図が見えるような感じがしました。

株価に反して業績が好調な企業は多い。たとえば鉄鋼業界には、建設ラッシュによる資材の高騰で大きく利益を伸ばしている企業が多い。
株価に反して業績が好調な企業は多い。たとえば鉄鋼業界には、建設ラッシュによる資材の高騰で大きく利益を伸ばしている企業が多い。

そこで、その直後に私たちはその会社の経営幹部に急いで連絡をして訊いたところ、「そのような悪い情報は何もない」との言質が取れました。そこで、すぐに(電話をもらってから10分以内に)「買います」と、さきほどのブローカーに連絡をしたところ、「もう売れてしまいました」との返事。つまり、このブローカーはもともとA株を売る気などなく、むしろ最初から持っていたかどうかすら疑問です。相場を下げるための嘘だった可能性が高いように思います。

この例のように、企業にすぐ連絡をして内容の確認ができる状況ならよいのですが、企業に連絡する手段を持たない個人投資家は不安になるのも仕方がありません。このような嘘の噂が流れていたりしますので、これが投げ売りにつながるわけです。

これはあくまで一例で、他にも「社長が逮捕された」とか、「資金繰りに困って給料が支払えなくなっている」とか、日本では考えられないような流言飛語(嘘の情報)がベトナムでは平然と飛び交います。

そこで、先日発表された政府の株価支援策の中には、「警察省に対し、投資家の心理に悪い影響を及ぼす噂を流した者を厳重に処罰することを指示した」というのがありました。これはこのような流言飛語をなくすために発表されたものです。

このようなことを考えてみると、現在のベトナム株は市場心理が必要以上に悪化していると考えられ、経済の実体以上にオーバーシュートして売られているように感じます。 (以上は、ベトナム市場における個人投資家の投資性向の一面を表したものですが、株価下落の要因や経済について、第2回のコラム「急激なインフレと株価下落」とともにお読みください)

たとえば、業績好調で利益が50%増や100%増となっているにもかかわらず、PERが5倍前後で放置されている銘柄も珍しくないのです。一般的に、株価は長期的に見ればファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)や企業収益力の影響の方が大きい傾向がありますので、短期的にオーバーシュートしている現在の状況は株を拾う良いタイミングという気がしなくもありません!

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