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「ベンチャー企業にとっての最適なファイナンス・ストラクチャーを一緒になって考えていくという姿勢が斬新でした」

株式会社ムスカ 取締役COO 安藤 正英

株式会社新生銀行グループ法人企画部 新事業領域推進支援室 室長代理 坂田 拓範

Question 1

ムスカの事業内容と会社設立の経緯について、教えてください。

安藤COO:選別交配されたイエバエを用いて畜産糞尿などの有機廃棄物から飼料と肥料を作り出す100%バイオマスリサイクルシステムを研究・開発しています。少し具体的に説明しますと、当社は約50年間1,200世代にわたる選別交配によってサラブレッド化された、産業化するために必要な能力を高めたイエバエを保有しています。それを活用して、畜産糞尿などの有機廃棄物から、有機肥料や動物性たんぱく質を畜産業や養殖業向けの飼料として活用する事業を展開しようとしています。その事業の普及を通じて、世界人口の急増に伴う食糧危機や増え続ける廃棄物の問題を解決しようとしています。
イエバエの研究起源は古く、旧ソ連による宇宙開発の関連事業でしたが、旧ソ連崩壊後、理想とする循環型農業の構築のためにその技術と研究が日本人の手によって宮崎県に持ち込まれました。その後、当社の創業者兼会長である串間らが県内で20年以上にわたって、イエバエによるバイオマスリサイクルシステムの実用化に向けた研究を積み重ね、事業化の目途が立ったため2016年12月に、ムスカを創業しました。

Question 2

ムスカのコア技術とその技術がもたらす効果について、お聞かせください。

安藤COO:当社のコア技術は、イエバエの高速培養技術です。これは、卵が成虫になって、その成虫がまた卵を生むという生物のライフサイクルを高速で回していくというものですが、この技術の活用によって、バイオマスリサイクルシステムに適した、いわば産業化のために”家畜化”したイエバエを育てることができます。通常のハエは過密空間の中では死んでしまいますが、当社のイエバエは過密空間下でのストレスに強いため、短期間で大量の有機廃棄物処理、すなわち肥料や飼料の大量生産を可能にします。
この技術は、特に畜産業にとって画期的といえます。畜産業の課題の一つは、家畜の飼育過程において発生する大量の糞尿の処理です。現在の主流は微生物による発酵処理ですが、完熟した堆肥になるまでに 1 年以上の期間を要し、悪臭、温室効果ガスの排出、地下水汚染などによる環境への悪影響も指摘されています。 ムスカのシステムでは、1週間という短期間で畜産糞尿を、有機肥料として処理することに加え、そこから飼料も生産することができ、従来の手法で直面する環境負荷を劇的に軽減する可能性を持っています。
生産される肥料や飼料が持つ効果がマーケットに認知されれば、本システムの事業性を飛躍的に高めることができると考えています。

坂田:当行が御社に出資させていただいた背景として、御社の事業には、社会課題をいくつも解決できるポテンシャルがあるのではないかという見方がありました。畜産農家の抱える糞尿処理の課題を解決する、という点は最もわかりやすい点ですが、最終的には食糧問題の解決につながるのではないかという点にも期待を抱いています。畜産農家およびその関係者からのお話を伺ってみますと、日本の食料自給率を上げていくという国策のもと、畜産農家に対する支援は今後も強化される方向性なのですが、それにはどうしても畜産糞尿の処理の問題が付きまとい、拡大しようにもエリアが限られてしまうということでした。また、畜産従事者の作業負担が非常に大きく、それがネックになっているという事情も聞いております。かつ、畜産農家が自前で堆肥化する場合にはその間の保管場所も必要です。本来はそこに牛舎や豚舎を建てることができれば、生産面積が広がり、より効率的に生産できるはずなのですが、畜産糞尿が毎日排出されますし、それを処理するためのコストも場所も時間もかかります。そこを御社の技術を用いることにより、約1週間で畜産糞尿を処理できる上、イエバエの幼虫もたんぱく質として活用できることにより、魚粉等の代わりに魚の餌として還元していくことによって、広い意味での食料問題の解決に繋がるのではないかという点で、大きな可能性を感じています。

安藤COO:当社もベンチャー企業として、長期的なミッションや可能性をしっかり見据えつつも、短期的にすべきことは機動的に実行しています。当社はベンチャー企業ですので、多方面に手を広げることはできません。当社の強みを十分に生かし、機動力をもって事業を推進していくことに集中し、畜産糞尿の処理を最優先課題として取り組んでいます。畜産糞尿に限らず廃棄物全般についても、取り組んでいこうとしています。他方、グローバルで長期的な観点に目を向けると、今後、食糧危機が加速度的に生じてくると言われています。実際、今日現在でも9人に1人が飢餓に瀕していると言われ顕在化しつつある問題です。先進国といえども遠い話でなく近い将来に他人事では無くなります。食糧供給体制、特にたんぱく質の安定供給体制の確立を、肥料や動物性たんぱく質の安定的な供給が、当社に与えられた長期的なミッションの一つと考えています。
当社は、ごみや糞尿を腐らせて最終的には肥料、養分に変えていくという自然界のサイクルを、独自の技術によって廃棄物をより早く処理することができます。処理方法についても、環境負荷がかからない上に、肥料や動物性たんぱく質として活用が可能です。そのためには廃棄物引取から製品の販売流通までのサプライチェーンの構築を行うことが急務となります。

坂田:御社のイエバエは、自然界にいるイエバエと元々一緒だったものを選別交配しながらサラブレッド化し、有機廃棄物処理の観点からより産業化に適した種であるということですね。
海外でも様々な研究が進められていると聞きますが、御社ならではの強みというと、どのような点でしょうか。

安藤COO:一番の強みは、やはり高速培養技術です。イエバエをサラブレッド化していくためには何世代もの時間がかかりますが、当社はそれを20年超の間、行ってきましたので、他社はそう簡単に追いつくことが出来ません。海外でも同じようなアプローチをしている企業がありますが、当社の持つイエバエの種は畜産の糞尿処理を得意とします。その上、その他の処理にも応用できる能力を持っていますので、オールマイティーと言えます。家畜から出る大量の糞尿は環境汚染のもとにもなっていますが、この技術によって、環境負荷を下げながら短時間で糞尿処理を行うことができます。これは他社のアプローチでは難しいと思っています。

Question 3

ムスカの技術を事業化する上での今後の課題や解決に向けて注力していることについて、お聞かせください。

安藤COO:”ハエ”に対する世間のイメージの悪さが大きなネガティブ要素だと思いますし、普及への大きなハードルだと思います。また、当社が今後製造を予定している肥料や飼料は、現在流通しているものの代替製品ではありますが、それ自体の性能評価や価格についてマーケットの信認を獲得していかなければなりません。
イメージの改善、製品のマーケット評価の確立は、当社の技術が産業として成立するためには不可欠であり、今後マーケティングや広報を通じて、多くの方々に理解していただくための地道な努力が必要です。
また、現在研究レベルで確立している、バイオマスリサイクルシステム技術のインフラ化、すなわちプラント化、産業化は技術上のチャレンジですし、プラント(ムスカプラント)を中心としたサプライチェーンの構築も課題です。当社自身はイエバエ技術の会社ですので、各領域でのエキスパートとのパートナーシップ連携を通じてその産業化を加速させていく予定です。
ムスカプラントについては、2020年中の稼働開始を目指しています。現在、エンジニアリングパートナーとの協議を進めており、並行して、原料調達、立地条件、行政や地域のサポート等の観点を踏まえながら、候補地の選定を進めています。

坂田:サプライチェーンについてですが、御社としてどのように外部企業と連携していくのでしょうか、その考えをお聞かせ下さい。

安藤COO:我々のミッションは、当社のシステムを世界に普及させていくということです。他社との協業を通じて、健全なサプライチェーン、エコシステムが構築され、ムスカが持つシステムだけなくそれを取り巻くサプライチェーン自体の最適化が図られ、普及していくことが、目指すべき姿だと思っています。それが当社の利益構造を短期的に圧迫する形になったとしても、長期的に意義が認められるのであれば、取るべき方向性として正しいものと思っています。
具体的には公表できない部分も多いのですが、サプライチェーンを当社が全て担うのではなく、当社にない強みをお持ちの企業と連携させていただき、強固なサプライチェーンを作っていきたいと思っています。インフラの上流から下流に安定的なフローを作ることが重要です。

坂田:飼料および肥料については既に市場が確立されています。その中で御社がマーケットシェアを獲得できる可能性、即ち御社の技術により生産された製品の特性、独自性について教えてください。

安藤COO:当社は必ずしも市場が確立されたとは思っておりません。飼料および肥料については、そもそもマーケットが供給不足に陥っているところを埋めていくものと認識しています。また、肥料の用途も必ずしも全て同一ではなく、製品によって得意、不得意がありますし、化学肥料、有機肥料どちらにもそれぞれ良さがあるので、マーケット全体のパイを大きくしていくという観点で考えるならば、それぞれの製品はお互いに補完しあう関係にあると言えます。
市場に広く当社の製品とその効果を理解していただければ、畜産業・農業の発展にもつながり、市場規模拡大に寄与できますし、当社の製品の販売量も飛躍的に伸びると思います。また製品の機能性に関しても、大学との共同研究の中で安全性の基礎研究は完了しており、機能性の検証が進むことで、品質という点でも強みが確立できればよいと思います。

Question 4

新生銀行の印象を教えてください。。

安藤COO:当社のように非常にアーリーステージで、技術の種はあるけれどもまだ事業化されていない、すなわち売上も立っていない企業に対して、銀行が将来性を信じて投資するという感覚を初めは持っていなかったので、正直驚きました。ただ、一緒にお話をさせていただく中で、当社の事業に対する中長期的な成長性を評価していただく部分と、シナジーが生まれる部分の両面に着目していただき、一緒に事業を作っていこうという姿勢も非常に強く感じましたし、パートナーとしても心強いと感じました。
ベンチャー企業が新しい技術により、サプライチェーンやインフラの構築を行うというと、一般的には技術リスク・事業リスクの方ばかりに目が向いてしまいがちですが、御行からは金融機関として的確なアドバイスをいただきつつも、どのように事業を成長させていくのか、ベンチャー企業の目線に立ったサポートのあり方を真剣に考えておられると感じました。今後、事業規模拡大等を通じて、御行の期待に応えていきたいと思います。

Question 5

今後、新生銀行グループに対して期待されることをお聞かせください。

安藤COO:御行の持つ、地域ネットワークには大きな期待を抱いています。当社の事業は、グローバル展開を意識している一方で、地域経済密着型の事業でもあります。地域との深い連携が鍵となる当社としては、ファイナンス面のみならず、新生銀行グループが持つ地域金融機関や地域企業等との繋がりを生かしたマッチングに関して、非常に魅力的と感じており、心強く思っております。さらに、ムスカのステークホルダーに対しても、新生銀行との戦略的パートナーシップを組んでいるという看板は、当社のようなベンチャー企業としては非常に心強いサポートであり、ブランディングの一つだと思っています。

坂田:当行は、ストラクチャード・ファイナンスで培った事業性評価とファイナンス組成能力を組み合わせた金融ノウハウを有していることが強みであり、当行や当行のお客さまの持つネットワークを有機的に結び付け、多角的な視点からさまざまな金融ソリューションを提供することで、ムスカプラントの展開や事業拡大に向けたサポートをしていきたいと考えています。まずは当社のビジネスにフィットしたファイナンススキームを設計することを目指していますが、今後関係していく地域金融機関などにもノウハウを共有することで共に御社のビジネス拡大を応援していきたいと考えており、資金調達にまつわる一連のお手伝いをしたいというのが当行のスタンスです。
また、新生銀行グループでは、ESG 投融資の推進により、持続可能な社会の形成を通じて当行グループの収益成長機会の持続可能性を高めていくことを目指しています。2019年に策定した中期経営戦略においては、持続的成長に向けた取り組みとして社会・環境課題の解決に向けた役割を果たし、SDGsへ貢献することを掲げています。御社との協業を通じて、循環型社会の実現に向けたエコシステムの創造に取り組んでいきたいと思います。

安藤COO:今後の事業展開に応じて、御行及び御行グループにはさまざまな点で御世話になると思っています。引き続き、宜しくお願い致します。

(2019年8月)

以 上